ふちなしのかがみを再考察してみます。

2016-07-12

ふちなしのかがみを再考察してみます。

 
怪談話がしっくりくる季節です。さあ存分に怖がろうと身構えていたのですがこの作品、少々難解で…

 
 
 
辻村深月作品は過去に何度か読んだことがあります。作り手としての葛藤や苦しみをフレッシュに描いた『スロウハイツの神様』やドラえもんへのオマージュに満ち溢れた『凍りのくじら』、映画化もされた感動作『ツナグ』など代表作も多い作家さんであります。
 
その辻村深月さんがホラー。
短編ホラー。
さてさて。
 
ふちなしのかがみを考察

意外に難解、『ふちなしのかがみ』を考察して

 
まず今作品は全5編からなる短編集になります。表題作『ふちなしのかがみ』をはじめどれも怪談や都市伝説、おまじないなどをモチーフに綴られてオリマス。
 
この5作品の中はどれも現実と現実ではない世界とが対峙しその境界に立たされた登場人物たちが不思議な体験をします。
現実とそうでない世界、その狭間は注意しないと知らず知らずに違う世界に迷い込んでしまっているかもしれません。
 
ふちなしの鏡を覗き込んだ世界は、果たして現実のほうでしょうか?
 

『踊り場の花子』

 
学校の怪談では必ずと言って良いほど登場する「花子さん」。ワタシも小さい頃は良くトイレの花子さんの話しをしたものです。
で、そのメジャーな題材を辻村深月が扱うとここまで怖くなります。
まず「トイレ」という舞台装置を変更し、踊り場とすることでいきなりオリジナリティーを魅せてくれます。
 
舞台となる小学校では夏休みを目前に3年生の少女が渓谷で転落し死亡する事故が起きていました。事故死ということで片付けられてしまったようですが、虐待疑惑のあった母親が犯人なのでは?と囁かれていました。
当時の担当教師だった相川はこの日、夏休みの日直で誰もいない学校に来ていました。
そこへ教育実習として来ていた小谷が訪ねてくるとこから物語は始まります。
 
随所に置かれた「花子さん」の布石と次第に明かされていく少女の死の真相が結びついた時に、向こう側の世界がぽっかりと口を開けていました。
 
「聞けよ、頼むから聞いてくれ!」、、花小さんにお願いをしてはいけませんよ。
 

『ブランコをこぐ足』

 
この短編集の中でも一際難解(?)な物語。正直ワタシはうまく消化できませんでした。しかしなんと言いますか、消化できない、分からない、ことで成り立つ世界があるということで良いのではないでしょうか。
 
ブランコ事故で亡くなってしまった少女みのり。この事故を巡って同級生や知人、友人の証言によって構成されていく本作品。
「コックリさん」ならぬ「キューピッド様」という遊びの中でみのりはなんとか友だちの中に自分の居場所を確保していました。当時の証言からも、この遊びが次第に熱を帯びだしてきて、みんなそろそろ止めようとしていた矢先のブランコ事故でした。
 
小学生の時は何かと怖い話しで盛り上がるモノです。そして必ずといって良いほど「コックリさん」的な遊びを一度は経験したことがあるのではないでしょうか?
本作はこの幼いながらにはまってしまうオカルト的な遊びを通してオバケよりも怖いスクールカーストを描いています。
 
誰だって経験するでしょう、あのクラスの目に見えないけど確実に存在するランキング
 
目立つ子たちが集まる一軍から仲間外れスレスレの底辺族…呼びかたは様々でしょうが子どもたちは残酷ですからね。或る意味怪談話より怖い
結局答えは見つからないのですが、果たしてブランコを漕いでいた足は誰の足だったのでしょうか…?
みのりがみんなから心配されたかったから?不運にも運動神経が悪かったから?それとも友だちたちの証言に嘘があり、みのりは誰かと一緒に乗っていたところを…?
 

『おとうさん、したいがあるよ』

 
はっきり言って不可思議
先の『ブランコ〜』はまだ推理・憶測する余地が多すぎて答えが見つからないとすれば、こちらは自分の考えが入り込むスキマがないのです。難解な抽象画をどうだと言わんばかりに見せつけられているような‥
 
祖母の田舎はかなり奥地にある集落のような場所にあります。祖母はそんな村の中で認知症を患い、その娘家族が世話がてら荒れた家を掃除することに。主人公はその家族の大学生の娘であります。
そんな荒れ果てた家を掃除していると、犬小屋の奥から少女の死体が出てきます。
 
日常生活に突然割り込んでくる「死体」という非日常的な存在。
おそらくカレンダーの日付や主人公の科白から祖母の家にいる間は夢のような異世界であり、そこから帰ってくると現実に戻る、ということなんでしょうか?冒頭も最後もゴールデンウィーク中なのもそういうことでしょうか?
 
物語もどこからが日常で、どこからが向こうの世界なのかが全然分からない‥この短篇集にはどの話にもこの「現実」と「向こうの世界」との境界線があって、この『おとうさん〜』が一番あやふや。
ひょっとしたら物語は全て向こう側で展開しているのかもしれないし、全て現実に起こったことなのかもしれません。
どちらにせよ、ワタシには理解不能でした‥‥
 
どなたかワタシをすっきりさせてください。。
 

『ふちなしのかがみ』

 
本作表題作となる本編ですが、こちらは怪談ではなく都市伝説を扱っています。
鏡の前に歳の数だけ赤いロウソクを灯し、午前0時丁度に振り返ると自分の未来の姿が見えるというものです。
 
ジャズ・クラブでサックス奏者をしている高校生に惚れてしまった主人公・加奈子。彼と自分との未来を知りたくなり、偶然知ったこの都市伝説を試してみると、そこには自分と彼の面影を残した少女が映りこみました。
これはきっと彼とうまくいくのだと判断した加奈子はますます妄想に耽るようになります。
しかし現実では彼には長く付き合っている彼女がいることが判明し、加奈子は現実でも妄想の世界でも次第にバランスを失っていきます。
 
狂ってしまった向こうの世界をやり直すには鏡の中に映ったモノを殺してしまえば良いという情報を聞いた加奈子はついに…
 
2、3作と続けて難解な物語が並んだだけあってこの作品は非常に読みやすく感じました。(怪談系なのに最初の感想が「読み易い」というのもアレですが…)
 
この作品もある一線を超えてしまった人間の狂気が描かれています。
 
信ぴょう性の怪しい都市伝説というものに、心の隙間を埋めてしまったばかりに主人公加奈子は向こうの世界に浸かってしまいました。
今作ではあるトリックが織り込まれていて、最後にちょっと驚く仕掛けが用意されています。
この叙述トリックにかかることでより人間の狂気の怖さを感じることでしょう。
 
 

『八月の天変地異』

 
最後の最後でやっと辻村深月らしい(?)作風でした。構成も分かりやすいし、読み終えた後の爽快感といいますかちょっと感動する不思議な物語です。
 
小学校のクラスでもイケてるグループから総スカンをくらってしまい、その原因が体の弱い幼なじみキョウスケのせいだと思っている主人公シンジ。
彼はなんとか自分の居場所を確保するため、架空のヒーローのような親友を作りあげました。
その名もゆうちゃん。
ゆうちゃんはサッカーがうまくてブラジル合宿に参加したり、バレンタインには抱えきれないほどチョコをもらったり、まさにヒーローのような親友です。
 
クラスから弾かれていたキョウスケとシンジもこのゆうちゃんの幻想のおかげでうまく輪の中に入れるかと思ったのも束の間。
 
ゆうちゃんが存在しないことをあっさりと見破られてしまいますます酷い嫌がらせにあってしまいます。
 
ある日もサッカーの試合中にわざと転ばされ、寄ってたかって暴力を振るわれてしまうシンジ。
そこへ止めに入ったのはなんとゆうちゃんでした。
 
小さい頃、架空の世界で冒険するのが大好きでした。
そしてそこには架空の仲間たちがいて、その世界では自分もまた理想の姿でした。
お恥ずかしい話ですが、ワタシはこの妄想遊びが大好きでした。
だからこそこの作品はとても共感出来たし、じんわりと感動すらしました。
 
あの頃、誰にだって一人や二人理想の姿の自分や友人、仲間がいたはずです。
 
今作では「セミ」が一つキーワードとなっていますがちょっと不思議な一夏の体験を描いています。
 

 

現実と非現実の世界の狭間

 
この作品ではどの物語も、この微妙で曖昧な世界の狭間が登場します。
そしてその狭間はいつだって脆くて、あやふやでワタシたちがどれだけ注意を払っていても気がつけば足を踏み入れてしまっているかもしれません。
 
そんなちょっと不思議で怖い話でした。
 
ただ、なんだかんだスクールカーストの残酷さ、リアルさが一番怖かったです。
 
やっぱりオバケよりも生きてる人間が一番……怖い?
 
 
 

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