極限状態サバイバル『生存者、一名』のどんでん返し度
都内で爆弾テロを行った新興宗教の幹部と実行犯の6人。
彼らは鹿児島の遥か沖の孤島「屍島」に潜伏する。
しかし幹部の裏切りに寄って孤立させられた5人…
サバイバル、特に極限状態における人間のサバイバル能力というのはどの程度のものなのでしょうか?
戦争、災害…同じ極限の状況にありながら生き残ることができた人とそうでない人
その差は一体…?
サバイバルミステリー短編『生存者、一名』歌野晶午 作を読んで
短編と呼べるほどの容量で、あっという間に読了しました。
でも中身はなかなか濃いもので、ミステリー小説としても上手く仕上がっているように思えます。
あらすじ
都内で爆弾テロを行った新興宗教の実行犯4人。
彼らは教団が国外逃亡を手配してくれるという話を信じ、鹿児島の遥か沖の孤島「屍島」に身を隠すことになりました。
そこまでの逃亡ルートは幹部2名も同行し、島に着いた日は6人で宴会をし、互いの労を讃え合います。
主人公は大竹三春。
実行犯の1人であり、このメンバーの中にはもう1人永友仁美という女性実行犯がいました。
女性2名と男性4名の潜伏生活が始まってすぐに幹部である関口が船とともに姿を消します。
取り残された5人はやがてこの潜伏の真の意味を理解し、組織に対する疑心と、仲間同士での猜疑心に取り憑かれていきます。
完全に孤立した状態の中、減りゆく食料に焦るメンバーたち
そんな状況の中で、ついに殺人がおきてしまうー…
サバイバルミステリーとしての読みどころ
短い作品ながら、物語の導入、展開、そしてオチが綺麗にまとまっている印象です。
盲目的にテロを行った心境はなんだか某真理教の件を彷彿とさせますし、離島へ逃げるまでもなかなかリアルな描写で引き込まれます。
この手の物語の難しい点は最初の殺人が起きるまで。
ここまでにどれくらいの情報量や背景を描ききれるかでその作品の面白さを左右します。
殺人が起こってしまえば後は勢い良く殺人は続き、最後のネタばらしまでひたすらアリバイとトリックにアタマを使うことになります。(個人的に)
なので作品の空気感といいますか、ビジュアルイメージを膨らませるには最初の殺人までが肝心です。(個人的に)
今作はその最初の殺人までが良かったと思います。
イメージ膨らみました。
孤島ならではのミステリー
今回は密室ではなく孤島。
しかし規模は違えど孤立していることには変わりありません。
限られた食料、自然の脅威、そんな中で各々疑心暗鬼に陥る姿はサバイバルミステリーならではの醍醐味です。
脱出しても追われる身の彼らは、進んでも留まっても死が待っているというジレンマに陥ります。
感想
正直な感想を言うと、冒頭部分から最初の殺人まではすごい良かったと思います。
一気に引き込まれました。
しかしトリックというか、後半の展開にはちょっとペースダウン?した印象です。
普段鈍いワタシでも先が予想できてしまいました。
また終盤ネタばらしの場面でちょくちょく新聞記事のように今回の事件の概要を挟むのですが、これが読むほうのリズムを崩したような…?
ミスリードを仕掛けてのもう一捻り。
だったのでしょうが、これはちょっとズルいような…
そしてそこを認めても今1つドンデン返せなかったような‥
最後に向けてはもう少し、といった感じではありましたが
極限状態への持っていき方、スリリングな展開は充分楽しめます
短い作品なので一読する価値はあるかと思います。