桐野夏生の『緑の毒』を読んで。

2016-07-12

妄想・想像・ストレスをどう発散するべきなのか?

桐野夏生が描く黒い衝動の果て。

 
 
 
桐野夏生作品をこのブログで取り上げるのはこれが2作目になります。以前『グロテスク』を読んでその感想を綴らせてもらいました。
 
 
 
桐野夏生と言えば名作、話題作、代表作とびっしり隙のないラインナップでありますが、今回はこの『緑の毒』を読んでみました。
 
 
『緑の毒』を読んで。
 

桐野夏生の『緑の毒』を読んで。

 

あらすじ

 
開業医の主人公・川辺には美しい妻がいます。この妻も医者でこちらは大きな病院に勤めている女医さんです。
で、この女医さん、そこの病院のイケメン救急センターの先生と不倫しています。
 
川辺はそのことを知っているのに本人には問いただすことが出来ません。趣味のヴィンテージスニーカー集めやハイブランドの洋服を買い漁ることでストレス発散しているのですが、妻に対する黒い欲望はどんどん膨らんでいきます。
 
そして妻が毎週密会する水曜日の夜、川辺は医療知識を活かして一人暮らしの女性宅に侵入し、意識を失わせてレイプするというとんでもない犯罪行為に及びます。
 
もともと他人を小馬鹿にするところがある川辺は、被害者の大半は泣き寝入りするだろうと高を括り犯罪を重ねるのですが、ある1人の被害者がネットに被害状況を書き込んだことにより被害者たちが繋がっていきます。
黒い欲望をコントロール出来なくなっていく川辺、夫に対する不信感が募っていく妻、そして理不尽な暴力によって日常生活を歪められてしまって被害者たち。
 
すべての登場人物たちのリアルな生活から見えてくる人それぞれの欲望の形、彼らの視線が交錯したとき物語はどこへ向かうのか?…
 

日常生活の中でゆっくりと育まれる「欲望」

 
今作は桐野夏生作品の中では比較的読み易いものになると思います。じゃあ他が読みづらいのかと言われるとそうではなく、他作品よりも受ける衝撃が小さかったような気がします。(つまり他代表作はとにかく読む方も真剣に構えないとその衝撃にヤられてしまいます)
 
なんでも結構長い年月をかけて仕上げていったようですが、テーマの割に読み終わった後の衝撃はあまりありませんでした。
 
この作品は卑劣な犯行を重ねる浅はかな主人公とその周囲の人たちの「日常生活」が丁寧に描かれています。
 
川辺の犯行は非常にショッキングですし、実際にそのシーンは読んでいて気分の良いものではありません。
 
しかし、物語で一番インパクトを与え易いこの犯行シーンを意外とあっさり終わらせてしまいます。
そしてそのことが、どちらかというと印象に残りにくい「日常生活」の方を丹念に描いているように余計に思えます。
 
人間は誰しも毎日の繰り返しの中で時間を消化していきます。
その時間の流れの中で、人は成長していきます。
 
しかしそれは同時に「欲望」や「悪意」といったネガティヴなものも、一緒に育っているということです。

 
 

最後に批評

 
ワタシは結構あっさりと読み終わってしまい、印象もあっさりとしたものでした。
物足りないということもありませんでしたが、心に深く残ったということでもありませんでした。
 
一つだけ、ちょっと辛口に言いたいことは、主人公・川辺のキャラクター造形。
 
ヴィンテージスニーカーのコレクターで、全身をハイブランドで固める男。
自由に使えるお金に余裕があり、ファッションセンスも悪くない男。
 
そして自分の欲望を抑えられない男。
 
んー…なんか惜しいんですよね。
まずお金持ちでファッションセンスある人ってのがそもそも稀有な存在(偏見ですが…)
 
金にモノ言わせて、的な服装にしてはセンスが良過ぎるんですよね。
そんなセンスある人ならもっと犯行もスマートにやるような気がして…結局最後までこの川辺というキャラクターが掴めずに終わってしまいました。
 
『OUT』、『柔らかな頬』、『グロテスク』などなど、強烈な女性を描けばおそらく無敵な桐野夏生作品。
今後はそんな強烈な女性キャラクターに対をなす「男性」キャラクターの誕生に期待します。
 

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