徹底解剖『アイズワイドシャット』衝撃作をいくつかのパターンで考察してみました。
キューブリックの遺作にしてトム夫妻の離婚の原因?とまで噂された衝撃作。
何せ一度観ただけではいまいち何が言いたいのかわからない映画。
ニコールキッドマンの美しさだけが印象的だったような‥‥
しかしこの作品、実は色々な解釈ができたり、様々な憶測ができたり、後日談があったりとなかなか奥深い作品なのです。
久しぶりに鑑賞し、やっぱり衝撃があったのでこの問題作について徹底的に語らせてもらいます。
徹底解剖『アイズ・ワイド・シャット』 この問題作は二度観たほうが良い。〈ネタバレ注意〉
実はワタシ、この作品映画館で観ました。
当時映画小僧として片っ端からビデオを借りる日々だった学生の時にこの問題作は公開されました。
「あのキューブリック最後の作品、、これは映画館で観たい」
という純粋な気持ちと予告編からして伝わってくるちょっとインモラルな雰囲気を感じ取ったスケベな気持ちとが入り混じって映画館に行ったのです。
しかし劇場で鑑賞後、これは一体なんだったのだろう?という疑問しか残りませんでした。
それもそのはず。
この問題作は呑気な学生には分からないだろうなと。
結婚生活が長く、ちょうど子どもも手がかからなくなってある程度自分の生活が安定してきた今だからこそ分かる…のかもしれないと思いまして。(今作ビルのように裕福でもなければイケメンでもないのですか…)
さてそれは一体どういうことか?
感ずるままに書いていきましょう。
あらすじ
巨匠スタンリー・キューブリック監督の遺作となった。彼が最後に選んだテーマは、ごく普通の夫婦の性の問題だった。ニューヨークに暮らす開業医のビルは、美しい妻アリスと何不自由なく幸せな生活を送っていた。ある夜、知人のパーティから帰宅した彼は、妻からセックスにまつわる衝撃の告白を受け、ショックのあまり家を飛び出す。
妻への嫉妬と自らの性衝動の狭間で苦悩する彼は、やがて禁断の倒錯した愛の世界へと足を踏み入れていく。トム・クルーズ、ニコール・キッドマンというスター夫妻を主役に迎え、撮影に18か月、編集に約1年を費やし、完全秘密主義のうちに完成された異色の愛のドラマ。主演2人の濃厚なセックスシーンも大きな話題を集めた。(山内拓哉)Amazonレビューより引用
夫婦で観るには勇気がいるけど、きっと答えはそこなんだろうな『アイズワイドシャット』
これはある裕福な夫婦がちょっとしたきっかけで妻の内面を見てしまって動揺した夫が(小心者なのに)こっそり冒険に出たらちょっとヤバいとこに顔出しちゃってビビりまくって白状するっていう濃密な二日間を描いた作品です。(かなりざっくりまとめましたが…)
そしてそこに深く広がっているのが『性』の抑圧と解放です。いやそんなカッコいい言葉で語る必要もないのかもしれません。これはただの「夢」の物語なのかも。
ハンサムで地位も名誉もそこそこあるビル(トム)と美人妻。
しかしこの夫婦が実はちょっと倦怠気味なのが分かるオープニング。(これ良く出来てます)妻はトイレしてる中、夫はそんな妻の姿には目もくれずに「綺麗だよ」と語る。
お互いを「異性」として意識していないことが瞬時に分かる名オープニングです。こういうちょっとの演出でその背景が見事に伝わる絵が好きです。
そんなちょっと倦怠気味な夫婦がパーティーでお互い違う相手と踊ったりデレデレしたりしたことがきっかけで妻は突然自らの内に秘めていた「秘密」を暴露します。
それはたった一目見た海兵に全てを捧げても構わないほどの激しい情念を抱いたという告白でした。
焦り動揺するビル。
で、どうしたかと言うと夜の街に繰り出します。
きっかけは別にあったにしろここからイケメン・ビルの夜の冒険が始まります。
何人もの美女に誘惑され本人もその気になるのですがそこが小心者。何かと色々あって一歩先に踏み込めません。
で、珍しく強引に一歩踏み込んでみたらそこは何やら超怪しい秘密のパーティーでした。何せ仮装乱交パーティーで出席者の名前を知ったら夜も眠れなくなると後に警告されるおぞましいパーティーです。
強引に踏み込んでみたもののすぐに正体がバレてしまい結局命からがら解放されるのですが…
しかし前夜の衝撃が信じられなずにうじうじしてるビルは翌日再びその秘密組織を探ろうとしたり、昨日一線を越えられなかった相手を未練がましく訪ねてみたりとウロウロ。
しかし「詮索するな」と釘を刺されていたにも関わらず気になって翌日探ってみたら、その動きをあっという間に見破られ心底びびって泣きながら妻さんに白状するという物語です。
そう、要するに自分の奥さんが実は他の男のことを想ってたという告白に動揺し、じゃあ自分も他の人によって解放してみたいと思った夫のなんともまぁ嫉妬に駆られた衝動とそんなことしてみたいって欲望がまるで夢の中のように凝縮されていくんです。
夫婦ってやっぱり色々ありますからね。
特に男は「奥さんは家で育児と家事をしているから安心」と謎の自信を持ったりしますからね。
でもお互い人間ですから。
やっぱり心の中に秘めた想いや過去は存在するんです。
それで1人欲望を秘めたまま夢の中を彷徨う夫は現実に帰ってきて「2人いるんだからやることは一つ、FU◯K」と言われて無事に終了。
こうしてざっと並べると倦怠期の夫婦がミステリアスな展開に巻き込まれるも無事に乗り越える、っていうだけの物語です。
が、ここで終われないのがキューブリック。
見事に観るものの心を奪っていくのです。
この物語は単純に倦怠期を乗り越えるなんて話では片付けられない不思議な側面を持っています。
ここからはあくまで憶測ですが…
『アイズワイドシャット』の謎、考察。
この物語、実は壮大な夢の中で起こった可能性がゼロではないんです。そこがすごく面白い。
というのも観客は巧妙に仕掛けられたひっかけに釣られてしまう要素がたくさんあるんです。
例えば主人公ビル夫妻。
ビルは最初こそ富豪の集まるパーティーでさも信頼された医師のようですがこれが実はそこまででもないことが後に判明します。
富豪ヴィクター・ジーグラーたちのパーティーでもどこか浮いてる夫妻。結局仲間としては呼ばれていなかったようで、仮装乱交パーティーでも最初から正体は見破られていました。
またこのパーティーシーンで妻アリスを口説く男性。
決してベタないやらしさじゃなくて知性溢れる色気で迫ります。これもアリスの最後の言葉とは非常に対照的です(ファ◯クですからね…)
つまりこの時点でこの夫婦=俗物は俗物らしくしてろ、大それた夢を見るな、大きく目を閉じろ(アイズワイドシャット)という解釈が可能です。
一見すると夫婦はお互いの見なくても良いことは見るなという俗語として捉えることができますがそんな解釈もできます。
仕掛けはまだまだあります。
ビルが決して交わらない。
夜の街で数々の誘惑を受けるビルですがそのどれもが全て未遂に終わります。これは単純に小心者だからとも言えますが、これが夢らしさでもあります。
例えばお腹いっぱいケーキを食べる夢を見ていても、その味までは分からないように彼は決して欲望を「感じる」ことのないまま終わります。
またそれを象徴するかのように彼が手袋をはめた姿がやたらと強調されています。
妻の名前がアリス
こういう謎解きっていうか勝手にあれこれ解釈してくと止まらなくなりますよね。で、うまく盛り上がっていくと『エヴァンゲリオン』みたいになります。
次の仕掛けは妻の名前です。
「アリス」ってまんまです。
そう、このアリスの告白からこの夢物語は幕を開けてしまうのです。アリスと言えばもう誰もがご存知のあの名作ファンタジーです。実際『不思議の国のアリス』、『鏡の国のアリス』両作を意識したディテールは随所に散りばめられています。(やたら鏡ごしのショットが多かったりね)
危険な仮面パーティーに紛れ込むきっかけとなったピアニスト・ニックは白いうさぎの役割でしょうか。
このディテールは結構ヒントになるのかも。
パーティーから無事に逃げられたビルが手にした新聞にはLUCKY TO BE ALIVE(生きていられただけラッキー)と非現実的な見出し。
さらにこれは撮影裏話なのかもですが、この舞台となったニューヨークはすべて完全セット。
独特の色彩空間で彩られたニューヨークはすべて作られた(偽物)なのです。
そんなことも多少関係あったりして(実際は飛行機嫌いのキューブリック、結局怖くてイギリスから出られなかったというのが真相のようですが…)
次に全て夢ではないものの実は巧妙に仕掛けられた現実だったという解釈です。
そもそもこの怪しいパーティー。
これ間違いなくフリー◯ーソンですよね。陰謀説、未解決事件とかが好きなワタシにはかなりたまらない設定です。
つまりこの物語はそこまで大物でもないビルが夫婦関係の亀裂から踏み込んではいけない秘密組織に触れてしまってハメられてしまったというもの。
ニックの行方を調べるためのホテルマンも、尾行する男も、なんならアリスも何かしら関わってた?
そう考えればラストの画面がベッドに置いてあるという脅迫シーンも、単純にアリスが家の中で見つけただけという捉え方もできます。
結局のところこの作品には幾つかの解釈が可能で
・夫婦の倦怠期を乗り越えるために起こった全て現実の話で命からがら無事に夫婦関係を修復できたって解釈。
・実際に起きてはいるがジーグラーの言う通り全てはフィクションで秘密組織が企んだドッキリに引っかかってしまったという解釈
・全て夢の中で起こった物語だったという解釈。
全部がそう言えそうで、全部見当違いなのかもしれませんが、考え出すと止まりませんね。
でぃすけのつぶやき
この物語って実は原作があってそれがアルトゥル・シュニッツラーって人の『夢小説』という小説です。この小説ではウィーンの街を舞台にやはりあの組織も出てくるようで‥そして映画は完成し極秘試写会を行ってすぐに監督・キューブリックは心臓麻痺で亡くなっています。一部ファンの間ではこの作品がやはりあの組織について描いてしまったばっかりに‥とか、ちょっと怖い噂もあります。
噂ついでに超がつくほどの完璧主義だった監督、こだわり過ぎて撮影は長引き撮影期間の長さでは記録を樹立し、この長期撮影がきっかけで夫婦間に亀裂が生じたとも言われています。
結局なぜキューブリック監督がこの小説を題材に本作を映画化したのか?は謎ですがこれが遺作となってしまったのはほんと残念ですね。
こういう作品っていくつもの捉え方、解釈の仕方があって個人的にとても好きなテイストです。
最後にまったく関係ないのですがワタシはトム・クルーズのことを勝手にハリウッド版木村拓哉だと勝手に思っていて、、スパイだろうが医師だろうが今作も安定のトム・クルーズが見られます。ニコールキッドマンも美しすぎ。
日本でリメイクする際は是非キムタク夫妻で。。
他にも映画や音楽の感想を書いてます。良かったらワタシの本棚も覗いてみて下さい。