真犯人は?ケモノの正体は?衝撃の問題作『ケモノの城』を徹底解説。
徹底的に残酷でグロテスク
小説でなければ表現できなかったであろう問題作をついに読み終えました。
これまで数多くの残虐な物語を読んできたワタシが、この問題作を考察・解説してみようと思います。
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衝撃の問題作、『ケモノの城』の感想・レビュー【ネタバレ注意!】
筆者は『ジウ』シリーズやテレビドラマ化もされた大ヒット作『ストロベリーナイト』を生んだ誉田哲也氏。程よいグロ描写と登場人物たちの視線が入り乱れる展開がスリリングで、ワタシは結構好きな作家さんです。
そんな誉田哲也さん、今回とんでもない作品を生み出してしまいました。
それがこの『ケモノの城』。
まずこれ先に言っておくと元ネタがあります。(元ネタなんて可愛いもんじゃないですが…)
そう、それは現実に起きた凄惨な事件です。
残酷過ぎて報道されない事件 北九州連続監禁殺人事件
2002年3月6日。犯罪史上類を見ない凄惨な事件が、17歳の少女によって発覚しました。
その事件こそが『北九州監禁殺人事件』
犯人である松永太がマインドコントロールによって家族同士を殺し合わせ、その遺体をバラバラにさせた事件です。
長期間(1996年~1998年)に渡って行われた、異常で猟奇的なこの事件、その犯行に使われた監禁現場は、北九州の小倉にあるマンションの一室。
首謀者である松永太は、自身の手を一切汚さず、周りの人間をコントロールして殺害させ、しかも、コントロールされている側は、自分で決め自分で行動している、と思い込んでしまっていたといいます。
事件のあまりの残虐性に、報道規制が敷かれた。
宮崎勤事件がそうだったように、この手の事件が起こると連日ワイドショーなどで報道され、マスコミの報道は加熱していくはずです。実際宮崎勤の連続幼女誘拐殺人事件は加熱する報道に加害者の父親は自殺しています。
しかし今回これだけの大事件にも関わらず、人々の記憶に薄い理由は、報道の規制があったという経緯がありました。
それが密室の中で虐待、監禁、そして殺害しバラバラにして捨ててしまうという事件の内容に加え、それら一連の犯行に10歳、5歳の子どもたちまで加担させ、最後には殺してしまったというのだからこの事件の残虐性が報道を規制させたのも無理はありません。
ちなみに2011年に犯人松永は死刑が確定しています。
そんな日本の闇に埋もれた極悪な事件をベースに本作は描かれているのです。
解説・考察 誉田哲也の小説『ケモノの城』
まずはこの作品が実際に起きた事件を基に描かれていることは説明した通りです。しかしこれはノンフィクション作品ではなく、あくまでも創作物として発表されています。
そしてこれを知っていて読んだワタシが、読み終えてなおモヤモヤとすることがあったので今日はこの作品を考え直してみたいと思います。
『ケモノの城』あらすじ
ある街で起きた監禁事件。保護された少女の証言に翻弄される警察。そんな中、少女が監禁されていたマンションの浴室から何人もの血痕が見つかった―。あまりにも深い闇に、果たして出口はあるのか?小説でしか描けない“現実”がここにある―。圧倒的な描写力で迫る衝撃のミステリー。
確かに小説でしか描けないという表現はぴったりでした。とにかくグロテスク…特に供述によって明らかになっていく監禁や虐待の描写はおぞましい限りだし、殺害からの解体シーンはもうずっとモザイクもんです。
ただ、先述したとおり
ベースとなる事件が本当に起こっているのだから鳥肌が立ちます。
果たして『ケモノの城』は衝撃の問題作なのか?
何度も言ってしまいますが、これは実話が元になっています。そして実際に起きた事件をワタシは結構ちゃんと調べてしまった過去があります。
そのためか
あまり衝撃ない…
正直、そこまでの問題作なのか?と。
この元になっている事件そのものがとんでもないインパクトを持っているのでそれを題材に創作したところで所詮かなわないのでは?というのがワタシの感想です。
よほどこの事件の詳細を調べていくほうがおぞましさも鳥肌も襲ってきます。
じゃあ小説として失敗作なのか?と言われると胸を張って答えられます。
いや、小説としてはかなり面白い。と
誉田哲也作品の面白さってやっぱり「視点」が絶妙に交差したりぶれたりするとこだと思うんです。
この作品ももちろんその絶妙さは発揮されていて、少女麻耶と同じく事情聴取されているアツコ。
この2人の供述が事件の真相を徐々に暴いていくことになるのですが、そもそもこの2人が「信用できる語り手なのか?」という余白を常に演出してるんです。
そこへまさに想像を絶する現場を語り出すアツコ。
実際の事件の詳細を知っていてもこの描写はこたえますね…
しかし誉田劇場はこの辺りが絶妙で、本当にそんな凄惨なことが?本当になんで逃げないの?なんでそんなことを?っていうことを信用できるか分からない語り手に語らせます。
だから読者はずっと気になってしまうのです。
一体真相は何なのだ?と。
ただの残酷描写だけではこうはいきません。やはりそのあたりは流石。取調べシーンはお見事です。
そしてさらにワタシが唸ったのはもう一つの舞台である若いカップルの存在です。
一見事件とは無関係に思えた若いラブラブなカップルのところへ彼女の父親と言われる男がやってきます。
明らかに不審なその男
彼氏である辰吾は明らかに不気味がります。そしてその疑念の芽は好奇心となります。やめておけば良いのにどんどん追いかけてしまうのです。
読者もそうです。
この2つの場面切り替えがかなりうまい。
読者は事件のことがどんどん分かってきているので、どう見てもこの父親とされる男が怪しいと思います。辰吾と同じ目線で信用ならない語り手が語る事件を追いかけていけるのです。
一方アツコが語る事件、麻耶が語る事件には依然として曖昧な点があり父親とされる男・三郎と犯人とされるヨシオが微妙に重ならない。
このミッシングリンクも素晴らしいですね。
この物語において信用できるのは唯一辰吾の視点であり、その辰吾が見たものがこの事件の真相なんでしょう。特に終盤、【現場】が初めて現実となる瞬間は壮絶です。
しかしこの物語は結局最後までケモノの正体を明かすことなく幕を閉じます。一応物語上ではヨシオなる人物が諸悪の根源であり、ケモノはヨシオだと示唆されています。
ただヨシオは劇中ではアツコと麻耶の語りでしかその存在は登場せず、真相は一体‥??
ケモノの正体は‥?『ケモノの城』ラストの意味を考える。
北九州の事件を知ってしまっている人にとっては、正直そこまでのインパクトはないかもしれないけど、小説としてはなかなか良い仕上がりとなっている本作。
やはり最大の関心はケモノの正体でしょう。
実際それこそがフィクションである本作の醍醐味であり、絶妙な演出が見事にはまったこの作品の面白さであります。
2人の信用できない語り手がヨシオというケモノの存在を明かします。しかしこれだけではケモノの存在の証明にはならない。
一方で信頼できる語り手である辰吾が実際にその存在を認めた三郎。
終盤、三郎の告白からもヨシオというケモノの存在が証明されます。
しかし
マインドコントロールされたアツコや麻耶もすでにヨシオ化しており‥
でぃすけのつぶやき
実際に起こった北九州の事件は、物的証拠の少なさとマインドコントロールによって被害者であり加害者となってしまう人間の弱さが浮き彫りとなった凄まじい事件でした。
人間はどこまで残酷になれるのか?
そして、そういう人間が身近に存在するという恐怖。
そんなことを改めて感じさせられた今回の『ケモノの城』
実際に起こったということが信じられないほどインパクトの強い事件だっただけに、それを題材にしたことで正直物語としての迫力には欠けたけど、小説としては十分に読み応えがありました。
案外身近にいるんだよって
サイコパスっていうか、ケモノは。
そして判断能力を奪われた人間は、簡単にケモノになれるんだという怖い事実‥
多分、あまりいないとは思うけど
この事件そのものに興味が湧いて、関連する作品なんかも一緒に読みたいって人はワタシが過去に読んだものを紹介してしめたいと思います。
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