永瀬隼介『デッドウォーター』を読んで死刑制度を感じて。

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無くならないどころかどんどん凶悪化する少年犯罪。

永瀬隼介の『デッドウォーター』を読んで。

永瀬隼介氏の作品、結構好きで何作か読んでいます。

三億円事件を扱った『閃光』は事件のディテールを緻密に再現しながらの持論を展開させ、かなり読み応えのある作品でした。

また凶悪な少年犯罪を題材にした『19歳』はまさに超ド級の衝撃を与えてくれました。

今作ではその少年犯罪をテーマにさらなる衝撃を与えてくるのか??

こないのか??

dead-water/disk※今回の感想はちょっとネタバレ要素強いです。というのもワタシが強く違和感を覚えたのがこの作品の閉じ方であり、どうしてもラストに触れずには語れないからです。悪しからず。

 

永瀬隼介『デッドウォーター』を読んで。

まずはとにかくあらすじを説明しておきますと

 

18歳当時、5人の女性を強姦した上で殺し、死刑判決を受けた希代の殺人鬼・穂積壱郎。その穂積を取材し浮上を図る事件記者の加瀬。厚い壁の中で保護され、死刑への恐怖心をまったく抱かない殺人鬼に復讐することは可能なのか?綿密な取材に裏打ちされた迫真の描写で死刑制度に新たな光を当てるサスペンス。Amazonより

果たして少年の心の闇は暴かれるのか?

ここが読みどころ。

足立区の不良少年、ヤクザ、フリーのライターに看守

一見なんの関わりもない人々たちが希代の殺人鬼・穂積を中心に次第に絡まりだす。

物語の展開はなかなか面白いです。

一体この人たちはどう物語に関わってくるんだろう?と思わせ、そして見事に絡ませる流れはとても面白いです。

テンポも良くて、一気に読み進めていきます。

特にワタシは死刑囚を監視する看守さんの苦悩というものを初めて意識することになりました。

 

死刑制度がある限り誰かが執行する必要がある

そんな当たり前のことを今までワタシは考えたこともありませんでした。

1番悪いのは凶悪犯罪を犯し、死刑されることになった犯人に他ならないのですが、犯人も人です。

「死」が怖いはずなんです。

そして同様に看守もまた死を恐れるんです。

特に看守の白井というキャラクターが良いアクセントになっています。

今作品では穂積という希代の殺人鬼がまったく死を恐れていないことで、看守を始め関わる人たちが皆彼に魅かれていってしまう…

テンポも良いし、死刑制度について考えるきっかけにもなったし、高評価か……と思いきやちょっと残念なポイントもありました。

 

※ここからネタバレ要素強いです。

 

残念ポイント

希代の殺人鬼、博識、死を恐れず塀の中からでも関わる人たちを操る頭脳。

まさにレクター博士のような無敵ぶりを発揮する穂積。

何故死を恐れないのか?

共犯者の存在?

徐々に核心に近づいていく中で

彼の無双ぶりがどんどん強烈になっていきます。

携帯電話も使っちゃいます。

しかしそんな博識で頭脳明晰な彼が突然目が覚めて恐怖を覚える…というあっけなさ。

五感が研ぎ澄まされているという状態を逆手にとったライター加瀬の粋な復讐方法までは良いのですが、そもそもそんなに研ぎ澄まされているなら……

どうもこの最後のバタバタ感があまりしっくりこなかったように思えます。

それを言ったら穂積と加瀬を繋ぐ接点、これもかなり強引なものでしたが。


 

あとがき

少年が持つ荒々しさや誇大妄想癖は時に素晴らしい才能となって世界に華々しく炸裂するケースもあります。

しかし同様にその力強さや得体の知れない欲望が爆発し、とんでもない犯罪となってしまう場合もあります。

少年・青年時代というのはそういう危険な爆弾のようなモノをみんな抱えています。

そんなナイーブな時期に受けた影響はとてつもなく大きくて、大人になった今でも捨てられない価値観となっています。

大切な時期ですね。

ワタシたち大人が、少年犯罪を生み出すことに加担しているのかもしれないと思うと、ちゃんと生きなきゃなと思うのでした。

最後は本筋とは離れてしまいましたが、少年犯罪、そして死刑制度といったことを考えるきっかけにはなる作品だと思います。

 

 


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