貴志祐介『雀蜂』、これは果たしてどんでん返しと呼べるのか?《ネタバレ注意》

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虫嫌いは取り扱い注意。

そしてどんでん返し好き・衝撃の結末好きもまた取り扱い注意です。

 

もともとは探偵物などの推理小説を扱う作家であった貴志祐介氏。ワタシ個人的には『青の炎』と『黒い家』(なんか色物シリーズみたいな並びになりましたがまったく別の作品です)の2作品ほどしか触れておらず、、未だ話題作『悪の教典』もドラマ化もされた『鍵のかかった部屋』も未読です。

なので今回たまたま手に取った『雀蜂』が貴志祐介作品だということも確認しないまま読み出しました。

今回この作品の感想を書く上で先に言っておきますと、【確かに衝撃の結末】が用意されてます。ただし、それが果たして上出来かどうか?というと‥

このオチに触れずに感想を書くことは難しいので今回は《ネタバレ要注意》で予めご了承ください。

suzumebachi

貴志祐介『雀蜂』は衝撃の結末と呼べるのか?《ネタバレ要注意》

スズメバチ亜科はハチの中でも比較的大型の種が多く、性質はおおむね攻撃性が高い。1匹の女王蜂を中心とした大きな社会を形成し、その防衛のために大型動物をも襲撃する。また凶暴かつ好戦的で積極的に刺してくることも多いことで知られるが、これは巣を守るためで、何もせずとも襲ってくるように見えるのは、人間が巣の近くにいることに気付かないためである。 ウィキペディアより

シンプルなタイトルに惹かれ読み出すことになった今回の作品。先に言ったようにこれを書いたのが貴志祐介氏だとも知らずに。

しかし冒頭のいかにも意味ありげなシーンから突如始まる密室サバイバル劇にスリルを味わい、気がつけば2日もかからず一気読みしてしまいました。

そして、このスリリングな物語には意外な結末が用意されていました。

ネタバレがあるので未読の方は気をつけてください。

あらすじ

11月下旬の八ヶ岳。山荘で目醒めた小説家の安斎が見たものは、次々と襲ってくるスズメバチの大群だった。昔ハチに刺された安斎は、もう一度刺されると命の保証はない。逃げようにも外は吹雪。通信機器も使えず、一緒にいた妻は忽然と姿を消していた。これは妻が自分を殺すために仕組んだ罠なのか。安斎とハチとの壮絶な死闘が始まった―。最後明らかになる驚愕の真実。ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!

読みやすい作品であることは間違いありません。ただ、果たしてこのあらすじにもあるラスト25ページのどんでん返し、がどんでん返しモノとして正しいのか?評価が分かれます。

 

『雀蜂』という作品の見どころ。

不思議な悪夢を見て、慌てて目が醒めると何やら様子がおかしい。

隣で寝てるはずの妻の姿はないし、微妙に乱れたベッドルームからは何かが起こった痕跡が残っている。

溢れたワイン、曖昧な記憶と意識…

そして冬の山荘に現れた蜂。

あと一回でも刺されたらショック反応で命を落とすと告げられた主人公と蜂との闘いが突如として始まります。

この突如始まる密室サバイバル劇場ですが、物語の始まりとしてはある意味でセオリー通り、自然に入り込めます。

どちらかと言うと映像的なスタイルで、『バイオハザード』や『SAW』のように突然の環境に陥ったところから始めることで観ている側(読者)の視線を無理強いすることなくこの世界に没入することができます。

今回は完全に自分の置かれた状況がわからないワケではないのですが、気がついたら妻がいなくて、蜂に襲われるという半ば強制的な幕開けとなります。

この辺りもあの衝撃の結末に向かうための伏線だと思えば確かに、良くできた幕開けでしょう。

さて、こうした密室サバイバル劇はだいたいにおいて途中でだらけてしまいがちです。

基本的に狩る側と狩られる側との攻防の繰り返しがこの手の物語の骨だと思えば、序盤から敵の姿を見せないという手法によってうまく緊張感を保たせる必要があるのに、今回は序盤から明確です。

ええ、虫です。蜂です。

そのため【妻の裏切り】というもう1つうまく見えざる敵を作ることで緊張感を与えています。

つまり主人公は目の前の蜂とサバイバルバトルをしながら、妻と浮気相手の存在というミステリー推理をすることになります。

この辺りなかなか面白い………

と、いうか

なんだろう?ちょっとクスっとなるような面白さなのです。

多分そもそも相手が虫っていうのがそこまで恐ろしくなってない…一応もう一度刺されたら死ぬという状況の説明は果たされているのですがイマイチ破壊力が足りない気がします。。

スキースーツにヘルメットかぶってバトミントンで蜂を倒す姿…

やっぱりちょっと笑える気がします。。

以下ネタバレ注意

しかし多少滑稽であろうが、敵の破壊力が足りなかろうがそのあたりは実はそこまで大きな問題ではないのです。

そう、この作品はラストのどんでん返しのためだけにある物語なのですから。

衝撃の結末、絶対だまされる、究極のどんでん返し

この手の作品の肝はやはりラストです。

そしてこのラストに向かう途中にある伏線がどれだけ大きな振り幅で謎を演出し、回収するか?が腕の見せどころであります。

その点で言えば今作は無理してないな、というのが率直な感想です。しかし同時にそれはずるいんじゃないか?とも受け取れるのです。

物語の構成上、主人公が第三者と関わっているシーンが極端に排除されていることがすぐに分かりますが、それがそのまま種明かしとなるのは少々ずるいような気はします。

まあコンパクトにうまくまとめあげたのかな?とも思いますが‥

 

悪く言えば無難。

ラストまでのドキドキ感、スリルがあまり強くないので結局すごい衝撃ってほどじゃないんです。。

でぃすけのつぶやき

ボリューム的にも展開も難しいところはなくて、読みやすい作品だと思います。

ただタイトルからも容易に想像できるように、相手は「虫」です。

思ったよりもモンスターパニックにもなりきれず、ミステリー要素もちょっと薄味、蜂を退治する姿がちょっとチャーミングです。

ただ何度も言うようにラストのどんでん返しのためだけに作られて物語だけに、少々中身が薄いような‥??

映像のイメージは湧くけど、映画ではなくて短編ドラマ的な。

そんな印象ですかね。

 


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