静かな衝撃『アメリカンスナイパー』が撃ちぬいたもの。
米軍史上最高のスナイパーと称されるクリス・カイル。
彼の自伝的小説を巨匠クリント・イーストウッドが映画化。
この映画、どう受け止めるべきなのか?
世間の評価なんてちょっと大げさ過ぎるんだよ、って舐めてかかった『グラン・トリノ』でものすごい号泣をさせられた過去を持つワタシは、中途半端な気持ちでクリント・イーストウッド作品に手を出さないようにしてきました。
しかしミリタリー物、戦争映画好きなワタシにとってもう我慢の限界。
ついに鑑賞することになりました。
『ブラックホークダウン』それは破壊の記録。 |
答えはあなたの心の中に⁉︎『アメリカンスナイパー』が撃ち抜いたもの
すごい…
すごい映画です。
クリント・イーストウッドさん、やっぱりすごいです。
まずこの作品はアメリカ軍史上、最高のスナイパーとして称えられた実在する兵士の自伝的小説が原作です。
クリス・カイル
敵からはラマーディの悪魔と恐れられ、その首には懸賞金までかけられたほどの兵士です。
まさに生きる伝説。
そんな伝説がこの作品公開を前に悲劇の死を遂げることになろうとは。
…もうこの作品がまさに伝説になるかのように…
あらすじ
イラク戦争に出征した、アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズの隊員クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)。スナイパーである彼は、「誰一人残さない」というネイビーシールズのモットーに従うようにして仲間たちを徹底的に援護する。人並み外れた狙撃の精度からレジェンドと称されるが、その一方で反乱軍に賞金を懸けられてしまう。故郷に残した家族を思いながら、スコープをのぞき、引き金を引き、敵の命を奪っていくクリス。4回にわたってイラクに送られた彼は、心に深い傷を負ってしまう。Yahoo!映画より引用
羊、番犬、狼
クリスの世界には幼い頃からの父の教えが常に戒めとなってその中心に確立していました。
「羊を守る番犬(牧羊犬)になれ、狼になるな」
やられっぱなしの弱者に落ち着くような男はダメだし、いたずらに暴力を振るうのもダメだが、その降りかかる暴力を跳ね返すために強くなれ、、と。
クリスは4回も激戦地に派遣されることで極度のPTSDを発症してしまいますが、そのカウンセリングの中でも、殺人に対しての罪悪感はまるでなく、蛮人から仲間を守っただけであり、もっと敵を倒せばもっと仲間を救えたと信じていたといいます。
賛否両論、問題作としてのアメリカンスナイパー
この映画は公開されるやたちまち絶賛と称賛と批判が入り混じった問題作となります。
それは、この映画が結論や主張をしないからかと。
一部の人たちにはとても好戦的と受け止められ、戦争を美化しているとも言われ…そしてモデルとなったクリスカイルが銃殺され、犯人の公判に影響を与え…
とにかく外野がやたらと騒がしくなり、更にこの作品を神格化させたように思えます。
一方で淡々とクリスの視点で映し出される戦争は続いていきます。
敵はより残忍に映るし、仲間との友情や信頼は何よりも固く描かれます。
実際テロリストたちには名前すらロクに呼ばれません。
当初から大義が不透明だったイラク派兵。
アメリカはこの戦いにおいてベトナム以来の苦戦を強いられることになります。
兵士たちの消耗、テロの多様化、下がるモチベーションと極度の脅威に晒されることになった世界
世界の警察になり損ねたばかりか、現在のイスラム国へと憎しみの連鎖をこじらせてしまいました。
その発端となったイラクに4度も派兵され、壮絶な戦場を経験してきたクリスの姿は鬼気迫るものがあります。
特に何も映っていないテレビを真剣に見つめる姿には非常に打たれました。
狼となったアメリカ
暴力から弱い者を守る為に、正しい暴力を使う
そもそも非常に危うい論理であります。
クリスに刻み込まれた教えはそのままアメリカという国が自由という旗の下に広げたものでもあります。
この作品を通してクリント・イーストウッドはその論理がとても危ういのだと、そう語っているように思えます。
除隊して間もない頃、クリスは近所のバーベキュー中に犬とじゃれる子供を見てすかさず犬を殴ろうとしてしまいます。
まさに狼が番犬に襲いかかった瞬間であり、このシーンがアメリカの姿をも想起させるのです。
あとがき
この映画をどう受け止めるか?
それは本当に個人の感性によると思いますが、ワタシはただただ切なくなりました。
戦争とは何なのか?
国を守ると信じて、女、子どもをも撃ち殺す異常な世界…
テロリストが支度をするシーンで、過去の栄光を写した写真が壁に貼ってあったり、隣で奥さん(?)が赤ちゃんを抱いているのが一瞬映ります。
クリスが蛮人と定め、殺し続けた敵たちにも名前がえり、過去があり、家族がいる…
たった一瞬のシーンでしたが、ワタシはただ
とても切なくなりました。
この映画には音楽は流れない。
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