【感想】佐藤究が描く進化論『Ank: a mirroring ape』を読んで。
久しぶりに小説の感想を綴ります。
夜長の秋、読書の秋
ここ最近ビジネス書ばかりを読み漁っていましたが、なんというかどれもこれも同じようなことばかり書いてあって…そこへふと手にしたこの作品。
クオリティの高いパニックムービーさながら緊張感溢れる展開、そしてその根底に流れる
人はどこからきて、どこへ行くのか?
という壮大なロマン。
あまりの面白さに一気に読み終えてしまいました。
【読書感想】佐藤究が描く近未来パニック小説『Ank: a mirroring ape』を読む。
あらすじ
2026年、多数の死者を出した京都暴動(キョート・ライオット)。ウィルス、病原菌、化学物質が原因ではない。そしてテロ攻撃の可能性もない。人類が初めてまみえる災厄は、なぜ起こったのか。発端はたった一頭の類人猿(エイプ)、東アフリカからきた「アンク(鏡)」という名のチンパンジーだった。
普段、小説を読むと勝手に脳内で映像化しながら進めてしまう癖がありまして
今回も非常にはかどりました。
衝撃的な暴力描写があるにもかかわらず。
物語は時系列に進むわけではなく、ランダムに語られながら核心に迫っていくタイプの構成で大きく分けて2つの見どころがあります。
1つは主人公・鈴木望とAI研究で天才的な才能を発揮したダニエルとの極秘プロジェクトの説明と、そこに流れる壮大な進化論の話。
もう1つは京都を舞台に繰り広げられる強烈な暴動シーン。
メインはAI研究と進化論なので、説明によってだれてしまうことを避けるためにかなり過激に描いたのかなとも感じましたが、これが正解。
緩急のタイミングが絶妙で時系列を分解したのもこれが狙いでしょうか。
不思議なのはかなり凄惨な描写があるにもかかわらず、そこまでもたれなかったこと。
これはやっぱり時系列をずらすことによる効果が出てるのかも。
はっきり言ってかなり強烈な描写です。
何せリミッター外れた人間がお互いを破壊し合うのですから。。
また主人公を始め、登場人物にさりげなくトラウマが植え付けられています。
それがちゃんと意味を成していることもこの作品の質を物語っていると思います。
ド級パニック作品と壮大な進化論の掛け合わせ。
遺伝情報に大差ない類人猿とヒト
ヒトだけがどうして言葉を持ち、こうして進化してこれたのか?
ヒトが人として存在する理由、この作品は何度も読者に問いかけてきます。
そして主人公である鈴木望は「自己鏡像認識」が鍵として一つの仮説を掲げ、我々は自分自身がどうやって誕生したのか、果てしなく壮大なロマンの中に放り込まれるのです。
この「自己鏡像認識」
ワタシもこの本を読んで改めて認識することになったのですが
簡単にまとめると
人間は1歳半から2歳ぐらいまでの間に、この「自己鏡像認識」能力を獲得するようです。
要するに鏡に映っている自分が自分であるということ。そしてそれが鏡の中の自分であり、本当の自分ではないということを同時に認識する能力みたいな。
たとえばシロテテナガザルなどの小型類人猿には「鏡に映っている像は自分」なのだということが、どうしてもわからないそうです。
そしてチンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンの大型類人猿には、「ヒト」と同じように「自己鏡像認識」の能力があるため、人間と類人猿とを分け隔てるものが何なのかが本作品の鍵となってくるのです。
暴動シーンの強烈なインパクトと深い進化論
これが掛け合わされることでクオリティの高いエンタメ作品に仕上がっています。
たまには人類誕生のミステリーに想いを馳せるのも悪くないもんです。
ワタシはどうやってこうして誕生したのか。。と