ケッチャムの衝撃作『オフシーズン』感想 文明の皮が剥がれたとき、人は何になるのか?

book

最恐のスプラッターにして最高の興奮。

まず最初に言っておく。

この小説はおすすめしない。

軽い気持ちで読む本ではないし、読後に爽快感もない。

それでも忘れられない。

それが本作『オフシーズン』という小説です。

著者はジャック・ケッチャム

ホラー作家と紹介されることが多いが、彼が描いているのは怪物ではありません。

人間です。

絶対に映画化不可能な問題作『オフシーズン』を読んだ感想を綴る。

『オフシーズン』を読んで/disk

ジャック・ケッチャムという作家をご存知だろうか?

もし知らないなら、それはそれで幸せな人生かもしれません。

もし既にご存知の方ならば、そのニュアンスが伝わるかと思います。そして同時に、知っているからこそ味わえる胸糞悪い快感を何と伝えるべきか悩むこともまた、理解してくれるかと思います。

とにかく、グロ・グロ・グロくて胸糞悪くて、人間の醜い部分をこれでもかと突き付けてくる作家は他にいないでしょう。あまりのグロさにこの作品だけは映画化されていません。

ここ最近ハマっていた真梨幸子さんもこちらには勝てないでしょうね。

…というかケッチャムに勝つということはもはや人間ではなくなっているということかもしれません。


オフシーズン (扶桑社BOOKSミステリー)

あらすじ

閉ざされた避暑地の一夜。舞台はメイン州の避暑地。

夏が終わり、人の気配が消え始めた九月。

都会からやって来た六人の男女が、静かな海辺の家で休暇を過ごす。

その夜、彼らは“食人一族”に襲われる。

ここから物語は、逃げ場のない死闘へと変わっていく。

避暑客が去り冷たい秋風が吹き始めた九月のメイン州の避暑地。ニューヨークから六人の男女が休暇をとって当地にやって来る。最初に到着したのは書箱編集者のカーラ。すこし遅れて、彼女の現在のボーイフレンドのジム、彼女の妹のマージーとそのボーイフレンドのダン、そしてカーラのかつてのボーイフレンドのニックとそのガールフレンドのローラが到着した。六人全員が到着した晩に事件は勃発した。当地に住む“食人族”が六人に襲い掛かったのだ。“食人族”対“都会族”の凄惨な死闘が開始する。 Amazonより引用

信じられませんが、実は物語のベースとなった実話が存在します。

この作品には野蛮な食人一族が登場します。この食人一族、実は実在したモデルがおります。(信じられませんが…)

15世紀から16世紀にかけてスコットランドに実在したビーン一家。近親相姦を繰り返し繁栄した彼らは海岸の洞窟に住み旅人を襲っては金品を強奪、やがてその死体を食べるようになったという‥

この洞窟に住み、旅人を襲い、やがて人肉を食したという話。

真偽はともかく、

「人間がそこまで堕ちる可能性」が物語の土台にあります。

それだけで、十分に不穏。

ではそんなことも頭に入れながら、早速本書を読んでいきましょう。

曖昧なボーダー 暴力に隠された本当の衝撃

グロテスク、スプラッターが苦手な方はこの本を読むことはおろかケッチャム作品に近づかないことが賢明な選択だと思います。

とにかく凄惨な描写がかなり生々しく続きます。

それはもう例えじゃなく想像できないほどの。

主人公カーラが(これ勝手に主人公だと思ったワタシ)情事に耽っている最中にまっさきに犠牲になるわ、逆に最初に殺られちゃうだろうなと思っていた臆病なカーラの妹が最後まで奮闘したり…と裏切りの連続です。

カーラのあの圧倒的なまでの解体シーンには文字どおり言葉にならない衝撃です。

この作品の見どころの1つはこの予想を超える展開の数々です。

著者のインタビュー曰く、

人生とはそういうこと、世界とはこういうものだ。と。

不条理の連続で成り立つこの世界を凝縮したかのような恐怖の一夜がスリリングに描かれます。

本当に怖いのは食人族ではない?

そしてもう1つ、この作品の魅力は読んでいるワタシたちに問いかけるモラルの問題です。

突如野蛮な人喰い族に襲われた都会からきた主人公たち。編集長や俳優やら洗練された都会人たちはこの突然の襲撃にパニックに陥ります。

このパニックはやがて都会人たちの野生を呼び起こし、壮絶な死闘を繰り広げることに。

銃を使い、知恵を使い本能剥き出しの野蛮人たちを振り払う境界線が次第に霞んでくるのです。

確かに描写は苛烈です。

容赦のない暴力。

救いのない展開。

想像したくない場面が続きます。

だけど、この小説の本質はグロテスクさではない。

本当に恐ろしいのは文明人と野蛮人の境界が、驚くほど曖昧なこと。

襲われた都会の人々は生き延びるために銃を握り、

相手を撃ち、容赦なく反撃する。

その姿は、

どこまで“野蛮人”と違うのだろうと?

この曖昧なボーダーが読んでいて非常に不気味なのです。

普段ワタシたちは文明社会の中にいてきどって暮らしてますが、一度野生を剥き出しにすれば野蛮人とそう変わらないのだと‥

極め付けは捜索に駆けつける警官たちが人喰い族に対して行った虐殺。一度外れた理性の鍵はもう掛け直すことはできないまま衝撃のラストを迎えます。

境界線が溶けていく瞬間

物語が進むにつれ、我々は違和感を覚えるでしょう。

襲う側と、襲われる側。

どちらがより残酷なのか。

どちらがより理性的なのか。

答えは単純ではありません。

むしろ人間は状況次第で、いくらでも変わる

という事実が突きつけられます。

そうです、文明とは、薄い膜のようなものなのかもしれない。と

衝撃のラスト。修正された経緯

実はこの作品。今読めるこの作品は「無修正版」であることが巻末の著者追筆からわかります。

しかしなぜ無修正版でなければならなかったのでしょうか。

本作は当初、編集側の意向で結末が変更されたという経緯があります。

より希望を感じさせる形へ。

なぜそこまでして救いを排除したかったのでしょうか。

それはおそらく、世界はそう簡単に美しくならないという冷酷な前提を

守りたかったからでしょう。

もし少しでも希望を与えれば、物語は安全なフィクションになってしまいます。

ケッチャムはそれを拒んだ。

この作品が残すもの

『オフシーズン』はスプラッター小説として語られがちです。

でも読後に残るのは、血や肉片ではありません。

残るのは、自分が同じ状況ならどうするか?

本当に理性を保てるのか?

文明人という立場はどこまで確かなのか?

という問いです。

それは静かですがじわじわと効いてきます。

まとめ 怪物は森にいるのか、それとも・・?

この物語に登場する食人一族は、確かに怪物のように描かれています。

ですがページを閉じたとき、本当に恐ろしくなるのは別のこと。

怪物は森の中にいるのか。

それとも、条件さえ揃えば私たちの中にも現れるのでしょうか。

『オフシーズン』は、その問いから逃がしてくれません。

読むかどうかは自由です。

でも一度読んだら、簡単には忘れられない。

そんな一冊です。


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