新選組入門書として最適かも?『バラガキ』という青春物語。
『バラガキ』
数ある新選組関連の小説の中でポップに弾んだこの作品。
新選組入門書にしては最適かもしれない。
この作品、作者はあの『岸和田少年愚連隊』シリーズを描いたあの中場氏。
どおりで作品全体から軽快で爽快で笑えてくる不思議な魅力に満ちているわけです。
新選組は時代の流れに抗った集団。
新選組を題材にした作品は本当にたくさんあります。
そしてそのどれもが結局はこの集団の破滅の美学といいますか
悲しい末路に向かう一種カタルシスを描くことに総力をあげてしまいがちです。
史実ありきなのでこれは仕方のないことですが、それでもたまに思うのです。
きっと当人たちはそこまで気負って「破滅の美学」だの「武士道」だのとリキんでばかりいたわけじゃないだろうなと。
今のこの価値観からは到底想像できないほど、この時代の「士道」とは高尚なものであったと思われるのですが、今の時代と同じように若者たちは勢いに身を任せて熱くなったり、羽目を外したりしたんだろうなと。
バラガキのトシ。
バラガキとは、もとは「茨の垣根」、つまり「手のつけられない悪童」を意味する多摩の言葉であります。
そして後に京都で浪士たちから恐れられる男がまだ京に登る前、多摩で暴れているところから物語は始まります。
その男の名は土方歳三。
誰かれ構わず喧嘩を売り、女性問題で荒れに荒れる。まさに不良の中の不良です。
そんな不良は気心の知れた仲間たちと地元で大喧嘩を繰り返す日々。
しかし時代は大きな渦の中に呑まれようとしていたのでした。
そんな時流に乗り、京に上る不良たち。
そこでも気に食わない相手は仲間だろうが、力士だろうがお構いなしで大喧嘩。
やがて不良たちは自分たちが思っている以上に深い深い渦の中に呑み込まれていることを知るのですが‥
強すぎるイメージありきの土方歳三
土方歳三という歴史上でも稀に見る色男は、幾つもの作品でそのキャラクターを確立されてきました。
有名どころだとやはり『燃えよ剣』でしょうか。
この作品の土方歳三は本当にカッコイイです。作品自体も素晴らしく、ワタシにとって理想の土方歳三はこの作品が全て描いてくれていると言っても過言ではありません。
ただ、この『燃えよ剣』のイメージが強すぎて、土方歳三といえばこうであろうという先入観を植え付けてしまいました。例えるなら『家なき子』の安達祐実さんのように。
この先入観を破ろうと常に想像を巡らしていたワタシにとって、本作の土方歳三は良い刺激になりました。
新しい解釈が爽快感を生む‥かも?
ワタシは小説を読んだ時に、どんなに優れた展開や描写があっても登場する人物がちゃんと呼吸をしていないとイヤになります。
主人公、脇役問わず、素晴らしいキャラクターがしっかりと呼吸している作品はやっぱり記憶に残るものです。
この作品は他の新選組関連作品に比べると、大胆な解釈がなされています。
解釈というか、挑戦というか。
まずなんといっても知的で無口な鬼の副長・土方歳三がとんでもない不良となって描かれています。
そして試衛館の仲間たちもこれまた立派な不良仲間として登場します。
もう沖田とのやりとりは青春コメディーを眺めているようです。
そしてなんといっても新選組にありがちの「悲劇性」がまるでない。
とにかく無知だけどバカ正直な若者たちが喧嘩に明け暮れるイメージが先行しています。
これが読んでいてとても楽しくて、新選組を知らなくてもテンションを保ったまま最後まで読んでしまいます。
物語は江戸から京に上り、そこで会津藩に認められて新選組という組織をより大きくしていこうとするまでを描いています。言うなれば新選組でも序盤から最盛期一歩手前までを描いています。
だからそこにはまだ悲劇の影は濃くないし、キャラクターたちが自由に暴れまわっている感じがよく出ています。
しかし、 やがてこの若者たちが凄惨な最期を迎えることを知っている読者にとってはこれが余計にこたえたりします。何故か泣けてきたりします。
「士道」だ「攘夷」だと長い年月をかけて築きあげてきた価値観を本気でぶつけあった若者たちが、ある日を境に逆賊となり、敗北し朽ちていくのです。
結局、ワタシは新選組という集団の末路を知っているからこそ、この作品の持つ青春時代独特の爽快感を楽しめるのでしょうし、すぐそこに迫る悲劇の影を感じるからこそ泣けるんでしょうね。
とはいえ
堅苦しくなく描かれたこの作品。
新選組第一歩として読むには楽しいかもしれませんね。