美しい戦争映画『ダンケルク』で静かなカタルシスを味わう。ネタバレ注意

Dunkerque本/映画/感想

クリストファー・ノーランという作家がいる。

ワタシはいつもこの監督は作家なのだと思ってしまう。もしくは、画家か。

『インセプション』の難解さと圧倒的なまでの絵画的ビジュアルに触れたとき

これまでのヒーローモノに極端にリアリティを与え今では名作として高評価を獲得した『ダークナイト』

そう、この人が描く物語はまるで一枚の絵。

その中にとんでもなく緻密なディティールとギミックが散りばめられていて鑑賞するものを惹きつけます。

果たしてノーランが戦争を描いたらどうなるのか?

Dunkerque

『ダンケルク』絶頂を迎えない静かなカタルシスの行方。

2017年に公開された本作品。世界中でも大ヒットしたわけですが中には過大評価では?という声も無きにしもあらず。

果たして実際はどうなのか?ちゃんと自分の目で確かめようということで鑑賞しました。

結果?

そりゃもちろん見惚れましたよ。

ほら、美しい絵画はずっと眺めていられるでしょう?

戦争映画としてのカタルシスを求めなければ100点だと思います。

あらすじ

1940年、連合軍の兵士40万人が、ドイツ軍によってドーバー海峡に面したフランス北端の港町ダンケルクに追い詰められる。ドイツ軍の猛攻にさらされる中、トミー(フィオン・ホワイトヘッド)ら若い兵士たちは生き延びようとさまざまな策を講じる。一方のイギリスでは民間船も動員した救出作戦が始動し、民間船の船長ミスター・ドーソン(マーク・ライランス)は息子らと一緒にダンケルクへ向かうことを決意。さらにイギリス空軍パイロットのファリア(トム・ハーディ)が、数的に不利ながらも出撃する。yahoo映画より引用

見惚れるほど美しい描写。戦争映画としての物足りなさ。

さて、本題に入りましょう。

ワタシが結論から述べたのには理由があって、おそらくこれは世間で語られている過大評価なのでは?論と同様の部分かと思いますが

要は戦争映画としては地味なんです。

調べてみればこの作品は異例の1億ドル以上の制作費をかけていて、かの『プライベート・ライアン』(1998)が7,000万ドル、『アメリカン・スナイパー』(2014)が5,880万ドル、とあり予算規模としては『パール・ハーバー』(2001)の1億4,000万ドルと肩を並べるだと。。

こうした大作戦争映画と同じくらいの予算をかけたのならもっと過激に、過剰に破壊され尽くされても良いものを、そうは描かないのが作家としてのノーランさん。

リアリティといった面ではワタシが大好きな戦争映画に『ブラックホークダウン』があります。史実を元に徹底的にその戦闘を描くことだけに注力した稀有な作品だと思っているのですが、ここにはその凄惨さを伝えるための過剰な描写がありました。

そのビジュアルショックによってドラマの不在を補っていた感があるのですが、『ダンケルク』にはそうしたインパクトに欠けるのです。

『ブラックホークダウン』それは破壊の記録。

しかしワタシは本作の持つ美しさに釘付けにされました。

物語性ではなく、絵画性。

『ダンケルク』もある戦闘を3つの視点から淡々と描いている、という流れなのですがここにドラマ性はあまり感じられません。強いて言えば海からの視点。ここには登場人物たちの想いが交錯し、ドラマが生まれてはいるのですがそこまで重きを置かれてはいません。

登場するキャラクターたちのビジュアル的な美しさもあって、戦場というよりVOGUEの広告みたいな雰囲気すら感じさせます。『地獄の黙示録』や『プライベートライアン』や『フルメタル・ジャケット』のあのじっとりとした泥臭さ、血生臭ささがないんです。

そう、戦争映画お決まりの「絶望感」にはドラマ性が不可欠です。

生きて帰るんだ、故郷には家族が待っているんだ、というお決まりのフレーズ。本作にもなくはないのですが、思い出して慌てて付け足したような具合で、本当ドラマではなく絵を撮っているんだなという印象です。

これは全体のトーンのせいかもしれませんが、とにかく画面いっぱいに広がる美しい光景に見惚れます。

終盤、燃料が切れてプロペラが止まったままスピットファイア(イギリスの戦闘機)が海の上を飛行する場面があるのですが、こんなにも美しく戦闘機を描いた戦争映画があっただろうかと、本当に見惚れてしまいました。

正直騒がれているほど時間軸についての面白みは感じませんでしたが、ちょっとずらしてるっていうのはタランティーノ好きとしては鉄板なわけで、嫌いじゃないわけで。

戦争映画として派手なドンパチを期待している人には向かないかもだけど、静かに芸術作品に触れるのが好きって人には深く刺さります。

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