新堂冬樹『悪虐』を読んで感じた暴力の違和感《ネタバレ注意》
新堂冬樹『悪虐』
暴力描写に耐性のない方。
心臓の弱い方は取り扱い注意です。
軽い気持ちで読んではいけません。
テーマやメッセージ云々の前に、その極限までの暴力描写に圧倒されます。
過剰なまでの暴力の先にあるものは…?
新堂冬樹の『悪虐』を読んで《ネタバレ注意》
圧倒的な暴力と過激な描写と言えばワタシの本棚の一番奥深くに鎮座している平山夢明作品や、友成純一作品を思い出します。
またその類似性から漫画『ワールドイズマイン』をちょっぴり感じたのですが、読み進めていけばいくほどなんだか違和感が沸き起こってきました。
さてこの『悪虐』の過剰な暴力はどこへ向かっていたのか?ネタバレ注意で感想を書いていきます。
とにかく取り扱い注意ですよ。
あらすじ
最愛のサキが癌で余命3ヵ月と宣告された日から、修次の凄まじい凶行が始まった。見ず知らずの女性の顔に額を叩きつけ、いたいけな少年の顎をライターで炙り、無垢な少女を家族の前で陵辱する。その刃はかつての恩人にも……。サキが修次への愛だけを胸に最期を迎えようとするなか、なぜ彼は破滅への道を突き進むのか?血塗られた超純愛小説。Amazonより引用
過剰な描写
出だしからいきなり圧倒されます。
止まらない花崎修次の悪虐。
オープニングの通りすがりの女性を失神させるまで痛めつけ、それをたまたま見てしまった小学生を半殺しにします。
もうやめてくれーとページをめくるのが辛い辛い…しかしここからさらにエスカレートしていくのです。
ほんとに読むのが辛くなります。。
もともと暴力描写には耐性のあるタイプ。
ワタシの今までの読書歴を見ても分かる通り結構エグいのも平気で消化してきました。
なんというか、凄惨なフィクションから帰還した時の「現実の日常は良いな、あれは作り物で良かった」と思える感じが好きなんです。
話がそれましたね。。
先ほども挙げましたが平山夢明作品や友成純一作品なんかはやはり読んでて「痛い」と感じることが多々あります。
両氏共に肉体破壊という意味ではもう暴力を通り越しているのかもしれませんが…
また暴力性、残酷性で言うとケッチャム作品が有名です。彼の作品も理不尽な暴力と淡々と描き切るので読んでて辛くなります。
まあ数え挙げればキリがないのですが、そういうワタシを「痛めつけた」作品たちの持つ暴力性が今作品の『悪虐』では何か違ったように感じたのです。
作品における暴力の置き方
ほんとに読むほどに違和感が強くなっていった今作品。
暴力描写は徹底してます。
悲惨で凄まじくて、辛くなったほどです。
しかし今作品はその圧倒的な暴力描写を強引にドラマチックに装飾しようとしているように感じてしまい、それが違和感となっているのかもしれません。
過去の幸せな自分と婚約者のエピソード
そして今、悪魔になるために必死で悪虐の限りを尽くす自分の姿
何故そうなったかという動機を伏せておくことで読んでる方は否が応でも先が気になります。
でも読者の大半は既に気づいてしまうというか、、まさかそのまんまな展開じゃないよな?と思いながら読み進めます。
ラスト驚愕の裏切りがあるかと期待しながら。
しかしまさかのド定番な展開に拍子抜けします。
そして思うのです。
じゃあ無理してドラマチックに仕立てなくても良かったのに、と。
きっとワタシの中の違和感の正体はここですね。
映画『ファニーゲーム』という最強の胸糞ムービーがあります。突然やってきた2人の若者に徹底的に痛ぶられる残虐映画です。
ここにはもう物語も何もありません、
ただただ破壊の限りを尽くすのです。
理不尽の極致です。
これで良いのです。
暴力とは理不尽さの最大の表現方法として機能するのです。
分かりやすい展開、ありきたりなストーリーの上ここまでの暴力描写は必要ないのではと。
今作の主人公花崎は悪虐の過程でかつての婚約者に似た女性との出会いや自分を救ってくれた老婆との出会いで善と悪とを考えるきっかけを得ます。
しかしこれらのエピソードもまたなんというか中途半端な感じすら抱いてしまうんです。
このテーマでいくのなら『ワールドイズマイン』のトシのようにとにかく緻密に人間を描写する必要があるのです。
暴力は徹底しているが、そこに物語が邪魔をしてしまっている。
…ような。
あとがき
初めての新堂冬樹作品。
もともと胸糞悪くなるような作品を追いかけていたら辿り着いた本作品でした。
だから新堂冬樹さんの他作品は一切知りません。
今回はあくまで【暴力】という観点から感想を書きました。
確かに噂通り、凄惨なシーンが続き読んでいて辛くなります。
しかし同時に分かりやすい動悸、ミッシングリンクがどんどんワタシを白けさせてきました。
こんなにも分かりやすいきっかけや、分かりやすい善とか悪とかの考察は必要なかったと。
暴力は徹底的に理不尽さで満ちていれば良いのだと。
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