貫井徳郎の『失踪症候群』感想。《ネタバレ注意》
失踪症候群を読みました。
貫井徳郎と言えば『慟哭』
もう『慟哭』という単語を見れば貫井徳郎というくらいワタシの中のイメージは強烈に固まっていますが、この作品はどうでしょうか?
『失踪症候群』感想、《ネタバレ注意》
1995年発表の今作は悪党を退治するという図式とそこに至るまでの巧妙な展開に読者はどんどん引き込まれていくエンターテイメント小説です。
慟哭ほどずしりと重たいメッセージを突きつけられるわけではないので、比較的軽い気持ちで爽快な読み応えが良いのか、のちにシリーズ化されています。
それらは「症候群シリーズ」と名付けられ、本作に続き「誘拐症候群」、「殺人症候群」の3部作となります。また、東海テレビとWOWOWの共同制作により、Season1は2017年4月8日から5月27日まで、フジテレビ系列「オトナの土ドラ」で全8話が放送されました。
Season2は同年6月からWOWOW「日曜オリジナルドラマ」で全4話が放送され、それぞれSeason1は『失踪症候群』『誘拐症候群』を、Season2は『殺人症候群』を原作としている。
ちなみにワタシはこのドラマから入ってしまったため、脳内再生は完全にこのキャスト。。
あらすじ
失踪した若者たちに共通点がある。その背後にあるものを燻り出すべく、警視庁人事二課の環敬吾は特殊任務チームのメンバーを招集する。私立探偵・原田征一郎、托鉢僧・武藤隆、肉体労働者・倉持真栄。三人のプロフェッショナルは、環の指令の下、警視庁が表立って動けない事件を、ときに超法規的手段を用いても解決に導く。失踪者の跡を追った末、ついにたどり着いた真実とは。悪党には必ずや鉄槌を下す―ノンストップ・エンターテインメント「症候群シリーズ」第1弾
失踪する若者、
発表された95年という時代。
まだスマホなんてなくて、オウム真理教による国内テロ活動に揺れ動いていた年でした。
就職氷河期への入りとして若者たちに対する閉塞感が強まりだした時代。
理由もなく、ある日突然失踪する若者たちを追うところからこの物語は始まります。
しかし若者の失踪はあまり事件性が高くなく、捜査はある極秘チームによって行われることになるのですが‥
この物語の最大の見せ場はやはりこの極秘チームのメンバーによる捜査でしょう。みんな色々事情があったり、癖があったり、そんな個性的なメンバーを束ねる環敬吾。
元刑事でワケありの探偵は若者の失踪と同年代の娘を持つことの悩みから捜査にのめり込んでいきます。
そして物語は意外にもこの探偵の娘と重なる部分が出てきて真実が次第に明らかになっていきます。
確かに違法行為も厭わない捜査、スピーディーな展開はこの小説を一気に読ませるに充分な魅力の1つだと言えるでしょう。
しかしワタシが面白く感じた部分は【若者】の姿でした。
ここで登場する若者たち(失踪する?とも言えるけど)はみんな今の自分を捨てたいという思いから、法のカラクリを利用して失踪します。
うるさい両親から逃げ出したい
自分の好きなことをしたい
若者たちの動機が、なんか今読むと懐かしく感じてしまいます。
今どきの若いものは、なんてことは言いたくはないのですがそれでもなんかこの頃の若者たちがとても懐かしくて、親近感すら覚えます。
自由になりたい、好きなことを好きなだけしたいというちょっと幼稚で、だけどちゃんとやりたいことが分かっていた当時の若者たちの姿。今じゃやりたいことを見つけに自分探しとかして、やっと主体性を作り上げる時代。
なんか若々しさを感じるのはおじさんな証拠か‥‥
結局悪いことしてしまった罰といいますか、事件に巻き込まれてしまうのですがここに出てくる若者の姿に妙にメランコリックな気持ちになりました。
ちょっと物足りない…でぃすけのつぶやき
この極秘走査チームを率いる環の全能感というか、鋭さみたいなのが強くて読んでいてあまりドキドキがなかったです。
きっとこの人にはすべてお見通しなんだろうなーっていう。
チームの人たちもそうで、このリーダーの環に任せっきりなとこがけっこうありました。考えることは環にやってもらおう的な。
もう少し捜査の過程でハラハラドキドキがあっても良かったかな??
その点原田という探偵の娘との確執はありがちながらも良い伏線となっていました。このおかげで物語がぐっと暖かくなった気がします。しかし同時にこのありがちさがちょっとチープでもあるんですけどね。
その点ドラマ版はクオリティ高かったような気もします。
そんなこと言いながらもうちの娘もきっとくるんだよなー反抗期……と内心ドキドキしています。