なぜ『ノクターナル・アニマルズ』はこんなにも後味が悪いのか?復讐ではなく「後悔」を描いた映画考察
なぜ『ノクターナル・アニマルズ』はこんなにも後味が悪いのか
復讐ではなく「後悔」を描いた静かな地獄を考察する
鑑賞したあとに残る「説明できない嫌悪感」の正体。何が1番きつかったのか?
『ノクターナル・アニマルズ』を観終えたあと、
はっきりとした恐怖や衝撃よりも、
じわじわと残り続ける嫌な感情に戸惑った人は多いのではないでしょうか。
暴力的な描写はある。
しかし本当にきついのは、そこではない。
この映画が描いているのは、
復讐ではなく、取り返しのつかない「後悔」だと感じました。
本記事では、
・作中小説の意味
・現実パートとの関係
・ラストシーンの沈黙が示すもの
これらを整理しながら、『ノクターナル・アニマルズ』の正体を考察していきます。
この“説明されない違和感”という後味は、
以前考察した
映画『still dark』を観て感じたこと。【ネタバレ注意】
とも非常に近い感触があります。
作品情報
原題:Nocturnal Animals
製作:2016年
上映時間:116分
監督:トム・フォード
劇場公開日:2017年11月3日
二重構造で進む物語。現実と小説が交差しないまま感情だけが重なっていく。
本作は、大きく分けて二つの物語で構成されています。
ひとつは、
アートディーラーとして成功した女性スーザンの現在。
もうひとつは、
彼女の元夫エドワードが書いた小説
『ノクターナル・アニマルズ』の物語です。
小説の中では、
一家が理不尽な暴力にさらされ、
父親が復讐のために追い詰められていく姿が描かれます。
この二つは、直接的には交わりません。
しかし感情のレベルでは、強く結びついています。
なぜこの物語には「勝者」が存在しないのか
作中小説は「復讐譚」ではない
一見すると、作中小説は典型的な復讐物語です。
しかし注意深く見ると、
あの物語は「勝利」も「救い」も描いていません。
・守れなかった後悔
・取り返しのつかない選択
・遅すぎた怒り
描かれているのは、
復讐によって何かを取り戻す物語ではなく、
失ったものを何度も思い知らされる物語です。
つまりあの小説は、
エドワード自身の感情の投影だと考えられます。
空っぽに見える彼女の理由。
現実のスーザンは、すでに罰を受けている
興味深いのは、
スーザンが現在の人生で「不幸そう」に見えない点です。
・経済的に成功している
・美しい生活を送っている
・社会的地位もある
それでも彼女は、どこか空虚です。
彼女が失ったのは、
愛情や情熱だけではありません。
自分の選択を正当化し続けなければならない人生
それ自体が、彼女への罰になっています。
ラストシーンが示す残酷な真実 会わないという選択が最も残酷だった理由。
終盤、スーザンはエドワードとの再会を待ちます。
しかし彼は現れません。
この沈黙は、復讐ではありません。
罵倒でも、拒絶でもない。
「もう何も言う必要がない」という意思表示です。
彼女にとって最もきつい形で、
過去は完全に断ち切られます。
それは、
・許されない
・責められもしない
ただ、置き去りにされるという結末でした。
なぜ観る側まで傷つくのか。他人事で終わらない物語
この映画が厄介なのは、
観客自身にも問いを突きつけてくる点です。
・あのときの選択は正しかったのか
・切り捨てた感情は、本当に不要だったのか
・成功と引き換えに失ったものは何か
はっきりした答えは、用意されていません。
だからこそ、
観終わったあとも感情が残り続けます。
説明されない感情に耐えられる人へおすすめしたい映画たち。
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以下の作品も強く響くはずです。
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いずれも、
説明されない感情を描いた作品です。
復讐ではなく後悔を描いた映画としての再評価。
『ノクターナル・アニマルズ』は、
分かりやすいカタルシスを与えてくれません。
ですが、
時間が経つほどに評価が変わる映画です。
復讐ではなく後悔。
暴力ではなく感情。
静かに、しかし確実に心を削ってくるこの作品は、
考察して初めて輪郭が見えてくる映画だと思います。








