短編映画『マニブスの種』感想 AI社会に生きる我々が育ててしまう“何か”

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不思議と印象に残る短編映画『マニブスの種』を観た。

派手な演出も大きな音もない。

それなのに、観ているうちに目が離せなくなる。

芦原健介監督による短編映画『マニブスの種』は、そんな“静かな異形”の力をもつ作品です

25分という短い時間の中に、少しずつ育てた何かをどう見れば良いのだろう?

『マニブスの種』レビュー|世にも奇妙な物語の系譜に連なる“芽吹く手”の寓話

あらすじ

下町の工場で働く足立克夫(菅野貴夫)のもとに、ある日、差出人不明の封筒が届く。

中に入っていたのは、正体不明の「植物の種」。

不審に思いながらも、彼は好奇心のままにそれを植える。

無趣味で淡々とした毎日を送っていた足立の生活に、ほんの少しの“変化”が訪れる。

芽が出ていく様子を眺めるうちに、彼の表情にはわずかな楽しげな色が戻り、

職場の同僚・アユ(小島彩乃)とも“趣味の話”で会話が弾むようになる。

だがある日、足立は目を疑う。

鉢の中から伸びてきた芽は

まるで人間の「手」のような形をしていたのだ。

 

“手”が象徴する、人間の欲と孤独

“手”とは、何かを掴むための象徴。

そして同時に、他者と触れ合うための器官でもあります。

この作品の“芽”は、そんな人間の二面性をそのまま具現化した存在だ。

足立にとって、手の形をしたその植物は“気味の悪い異物”であると同時に、

“自分を見つめ返してくれる唯一の存在”にもなっていきます。

孤独な男の心を癒やすように、そして少しずつ侵食するように、

“手”は成長していくのです。

なぜ、派手さがなくても惹きつけられるのか

『マニブスの種』の魅力は、何も起きていない時間の“怖さ”にある。

足立が部屋で植物を眺めるだけのシーン。

小さな鉢に光が差すだけのカット。

何気ないその一瞬一瞬に、張りつめたような緊張感が漂う。

ホラーでありながら、どこか優しく、そして静か。

観る者の想像力を刺激し、

「これは何の話なんだろう?」という思考が、観賞後もしばらく頭から離れない。

ほんとうテレビドラマ『世にも奇妙な物語』シリーズにも似た雰囲気があります。

テクノロジー社会へのさりげない寓話

この映画を現代的に読むなら、“手”はAIやSNSとの関係にも重なります。

自分を満たしてくれると思って触れたものが、

いつの間にか自分の一部になり、そして離れられなくなる。

孤独を埋めるために育てたはずのものが、

いつの間にか“自分を侵食する何か”に変わっていく。

そうした現代の“依存”や“接続”を、芦原監督は無言のまま描き出しているのでは・・

 

静かな不穏さの中にある“人間らしさ”

最終的に“手”がどうなるのか――その結末をここでは語らない。

だが観終わったあと、あなたの中に残るのは恐怖でしょうか?

ワタシはむしろ“哀しみ”が残りました。

人間は、孤独を癒やすために何かを育て、同時にその何かに支配されていく。

『マニブスの種』は、そんな人間の優しさと危うさを映した鏡のような作品です。

25分の短編にして、ずっと胸に残る“静かな恐怖”。

映画情報

タイトル:マニブスの種

監督・脚本:芦原健介

出演:菅野貴夫、小島彩乃、目黒貴之、中野健治、江口逢、芦原健介

制作/配給:STUDIO TRAM

上映時間:25分

公式サイトhttps://studiotram.com/manibus/

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