《ネタバレ注意》真梨幸子の『みんな邪魔』で味わう最高の不快感
イヤミスの女王、と呼ばせていただきます。真梨幸子さん。
立て続けに読んで心底参りました。
《ネタバレ注意》読んでて辛くなるほどリアル…更年期少女こと『みんな邪魔』を読んで。
さすがに続けて真梨幸子作品を読むと、どんよりとしたダークな気分になってきます。
『フジコシリーズ』、『女ともだち』、『孤虫症』…そのどれもが期待を裏切らない嫌な感じを与えてくれ今じゃこのジャンルにおいて絶大な信頼を寄せてます、真梨幸子さん。
もちろん今作でも読まなきゃよかったって後悔に似た嫌な感じは健在です。
あらすじ
少女漫画『青い瞳のジャンヌ』をこよなく愛する“青い六人会”。噂話と妄想を楽しむ中年女性たちだったが、あるメンバーの失踪を機に正体を露にし始める。飛び交う嘘、姑息な罠、そして起こった惨殺事件―。辛い現実から目を背け、ヒロインを夢見る彼女たち。その熱狂が加速する時、新たな犠牲者が…。殺人鬼より怖い平凡な女たちの暴走ミステリ。Amazonより引用
あまりにリアルで、あまりに悲惨な現実とそこからの逃避先にある幻想。
この作品に出てくる登場人物たちはみんな一言で言うなら「おばちゃん」です。
大層なニックネームで呼び合っているけど、はたから見たらただのおばちゃんたち。
主婦としてありきたりな家庭の問題を大なり小なり抱えて日々鬱積しながら生きています。
夫との不和
母の介護
姑との確執
世間体を気にして
誰もが共感できるリアルな悩みを抱えながらも、ある少女マンガのファンクラブに集まってストレスを発散する彼女たち。
このファンクラブには彼女たちの日頃の問題や悩みは浸入することはありません。
彼女たちが自分らしく過ごせる自分の居場所
いわば聖域のような場所なのです。
しかしこのファンクラブこそが、登場する女性たちを惑わせ、次第に人生を大きく狂わせていく元凶となっていくのです。
ファンクラブ「青い六人会」
伝説的少女漫画『青い瞳のジャンヌ』をこよなく愛する女性たちが集まり、結成されたファンクラブ「青い六人会」。
物語はこのファンクラブに最近入会を許されたエミリー(枝美子)の視点から幕が上がります。
その「青い六人会」は40代、50代の女性たちの集まりなのですが、その中にガブリエルという32歳の美しきメンバーがいます。
1人若く美しくガブリエルの存在はみんなの憧れ。
メンバーたちはしきりにガブリエルの気を惹こうと隠れて躍起になっているのですが、各自その暗躍が「青い六人会」を狂わせていくのですが…
メンバーは
ガブリエル…若く美く、そして謎に満ちた存在。
エミリー…かつて不倫をしたせいで夫との関係は最悪。それでも仕方なく夫婦として暮らしていくことに絶望中。絵が上手で今回ファンクラブに入会出来たのもこの絵があったから。
シルビア…極度の見栄っ張りで嘘に嘘を重ねてしまう性格。実際は生活保護を受けながら借金まみれのシングルマザー。
ミレーユ…どうしようもない中年ニートで、パチンコ三昧。母の介護問題、下の兄妹たちとの確執…しかし親に甘え現実逃避してしまうどうしようもなさ。
ジゼル…一見すると玉の輿にのり、順風満帆かと思いきや典型的な姑問題や子どもの引きこもり問題。抱えている。不倫疑惑にまさかの高齢妊娠が発覚し…
マルグリット…ファンクラブのリーダー的存在。しかし自分の見栄のためには他人の犠牲も気にならない傲慢さを持ち、夫は鬱病、過剰に手をかけた娘には逃げられ胃痛を抱えている。
…人物紹介、、しかも簡単な紹介をしただけなのにこんなにも気分が落ち込んでくるのは一体…
以下《ネタバレ注意》です。
ファンクラブ内で渦巻く噂や嫉妬、妬み。
しかし彼女たちはそこを聖域だと信じ、自らその闇に身を投じていきます。
以前在籍していたメンバーが失踪していたことが判明し、次から次へと彼女たちの身にも無惨な死が迫ります。
まるで何かの呪いのように悲惨な散り方をしていく「青い六人会」のメンバーたち。
真梨幸子作品の中では珍しくしっかりとしたトリックが仕掛けられている同作。
ガブリエルの求心力の謎…
悲劇の後にただ1人笑うことができたエミリーの真相…
一連の悲劇が終わり、そして再び開催される「青い六人会」。いつまた同じ「呪い」が発動するかもしれない危険性を孕んだまま再開する不気味さを持って物語は幕を閉じます。
このリアルな闇には本当鬱陶しくなります。
登場する女性たちが抱える闇が「リアル」なんです。
何も小説の中まで現実感溢れる重苦しさを味わうことないじゃないかって思う人もいるかと思いますが、ここに真梨幸子作品の真骨頂があるんです。
他人の不幸は最大の蜜となる。
これです。
重苦しいなー嫌だなーと思う一方で、ワタシは彼女たちに比べたらマシなんだなと思う心がムクムクと現れるのです。
ワタシは彼女たちみたいにならないよ、といつしか蔑む感情が心地よくなってきて、自分にもこんな醜い闇があったのだと気付かされます。
このあまり知りたくなかった自分の気持ちを暴かれ、本当の意味での「イヤミス」は完成するのです。
いっそとことん醜い自分に溺れてしまえば最高に楽しめるのでしょうが、どこかで同情し切なくなる綺麗な自分がいるんです。
ある意味本当に邪魔なのはそんな綺麗事言ってる自分の心だったりして…?
今回もやられましたね。しばらく真梨幸子作品はお腹いっぱい。
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