村上龍の『半島を出よ』を読むと、最近の北朝鮮問題が本当に恐ろしく思えてきた。
緊張高まるアジア情勢。
ずっと平和な毎日が続くと思ってはいませんか?
関東には来るぞ来るぞと言われている大地震に、最近では異常気象が続き未曾有の大災害に備えなきゃいけないということが叫ばれるようになってきましたが、先日ついに隣国から飛んでくるミサイルに対しても、警戒せよという正式なアナウンスが発表されました。
しかしどう考えても台風や地震などの災害と、他国からの侵略、攻撃とは別物です。
平和ボケ、というよりも致命的な想像力の欠如を補うために是非この作品を読んで考えてみましょう。
もはや悪夢は現実となるか⁉︎『半島を出よ』村上龍最高傑作を今こそ読むべき。
かつてワタシも右だの左だのと熱に浮かれたことがありました。
大学生というお金はないけど時間はあって、安いお酒で友達と朝まで語り合うなんて日々がありました。
『愛と幻想のファシズム』、『5分後の世界』に『凶気の桜』、果てには『我が闘争』‥
とにかくちっぽけな大学生だったワタシは頭ばかり大きくなってやたらと国家だ芸術だと語り合ったものです。
そしてその当時ワタシの度肝を抜いた作品が今日紹介する『半島を出よ』です。
『シンゴジラ』でも散々いじられてましたが、あの震災で決断力のない何とも無能な日本政府の姿を目の当たりにしたワタシたちにとって、有事の際の日本という国の脆さは最早フィクションではないのです。
ましてミサイル発射をきっかけに戦争に発展する可能性も高まり、ますます不安になりました。(今は民○党ではないからまだ良いですが…)
そんな今だからこそもう一度読みたいと思って、再び購入し今だからこそちゃんと感想を書いておきたいなと思いました。
あらすじ
北朝鮮のコマンド9人が開幕戦の福岡ドームを武力占拠し、2時間後、複葉輸送機で484人の特殊部隊が来襲、市中心部を制圧した。彼らは北朝鮮の「反乱軍」を名乗った。
〈財政破綻し、国際的孤立を深める近未来の日本に起こった奇蹟〉Amazonより引用
『半島を出よ』がいよいよ現実味を帯びてきた‥
この手の作品はどうしたって【笑ってしまうくらい危機感のない日本人】を描き、これじゃいけないよ、このままじゃダメだよという警鐘を鳴らすような作風に落ち着くことが多いと思います。
『シンゴジラ』も冒頭から政府の混乱っぷりがコミカルに表現されてましたし、『ゼロの迎撃』、『宣戦布告』などもこの手の作品としての流れをきちんと踏んでいると思います。(是非興味ある方は手にとってみて下さいね。)
とにかくリアリティが大切です。
このクライシス物って、やっぱりリアリティが重要な鍵を握っています。
『シンゴジラ』のキャッチコピー【虚構対現実】というのは記憶に新しいですが、やはりあの作品はフィクションの中でどれだけリアリティを保てるかが大切だったかと思います。
政府の対応もそうだし、逃げまどう人々もそう
フィクションの世界を現実に生きている人たちにリアリティを与えないと重みが出ないんです。
そして当然ながら、国家の危機を描く際の重厚感は作品の命とも言えるでしょう。
日本的会議。
北朝鮮のコマンドたちが福岡ドームを制圧している中、政府は初動対応を充分にすることが出来ませんでした。
その責任を1人の大臣に押し付け、その人は会議室にいながら会議から追い出されてしまいます。
しかしそのおかげで彼は外野から客観的に見ることになるのです。
日本的な会議の異様さを。
ちょっと話がそれますが、社会で働いたことがある人なら一度や二度は「会議」というものを経験していることでしょう。
これ、本当優先事項をしっかりと据えて目的を設定しない限り会議のための会議が永遠に続きます。
まして日本的な会議は上の者を立てる、慣例に従う、ことで場を落ち着かせるのでますます終わりが見えないんですよね。
この作品の政府たちも異様な会議を繰り広げます。
弾かれ、外野としてその異様な会議を観察する大臣の視点はそのままワタシたちの視点と重なります。
しかし村上龍はその辺りを下手にコミカルにはせず、その大臣にこう言わすのです。
「私もあの中にいたら違和感もなくやっているだろう」と。
かつて『5分後の世界』において今の日本国を痛烈に皮肉った作者は今作では異国の戦士たちの視点を借りて皮肉ります。
上巻のまとめ
パラレルワールドの日本。経済的に衰退し、国としての威厳もプライドも消滅した惨めな日本が舞台。
職を失い浮浪者が大量に溢れる社会。
その浮浪者グループの中にいる少年グループたちを束ねるカリスマの存在
不審船に乗ってやってきた北朝鮮のコマンド9人。
彼らは作戦通り福岡ドームを占拠し、後続部隊と合流。高麗遠征軍と名乗りを上げる。彼らが皇居や国会議事堂、ガスタンクなどを狙うというデマが流れ、日本政府は福岡を事実上封鎖。
彼らによって制圧、占領される福岡。
日本の犯罪人を逮捕し、その財産を没収する遠征軍。
ある容疑者を逮捕しに向かった先で襲撃に合ってしまう。
下巻のまとめ、そしてクライシスへ。
マイノリティーたちの活躍。
北朝鮮の兵士たちによる統治の徹底さ、侵略のディテールは見事で、小説というよりも実際のシミュレーションやレポートみたいな感じで読めてしまいます。
それをさらにエンターテイメントとして昇華させるカンフル剤としてこの作品にはたくさんの「社会不適合者」たちが登場します。
実はこの彼らを束ねる強烈なカリスマ。詩人。これ、『昭和歌謡大全集』という作品に登場するキャラクターたちなんです。
この作品自体がかなりぶっ飛んでいて映画化もされてますが、触れてしまうと長くなるので割愛します。
※相当面白いです、未読の人は『半島を出よ』の前にこちらを読むことをオススメします。
社会のお荷物とされた不適合者たち、彼らはみな問題を抱え、実際に問題を犯し、流れ集まってきた人たちです。
真っ当な趣味や特技ではないけれど彼らはそれぞれ自分の居場所、存在意義を必死で確立していました。
毒に魅了され昆虫や蛙を飼育する者もいれば
驚くべき精度でブーメランを放つ者もいる
爆弾に武器、痛みを感じない者…
みんな自分の中にある問題と向き合い、ここまでの境遇を嘆く訳もなく、他人に興味がある訳でもない。
個性豊かな彼らが初めて「他者」を感じたとき、美しい時間が流れ出すのです。
共通の敵、美しい時間。
作品下巻はまさに超弩級のドラマが展開します。
福岡ドーム制圧後、後続部隊が到着し高麗遠征軍と名乗り統治し出す北朝鮮コマンドたち。
さらに12万人の武装難民が彼らの後に続き出港したという。
しかし日本政府は福岡を封鎖したこと以外は何の具体的な対策をすることもなく、ただ国連や同盟国に抗議をするばかり…
占領されても普通の暮らしを続けなければならない人々の描写があり、北朝鮮の人たちがどうして交渉がうまく、広報活動がうまいのかがきちんと説明され、そして社会不適合者たちが共通の敵と認識し、不思議な作戦が決行されるのです。
好きな娘を殺害しバラバラにしたり、新幹線の車掌を日本刀で刺し殺したり、母親から殺されかけたり、…見事なまでに歪んだ彼らが集まり共通の敵を認識し社会から常に抹殺されかけている彼らだからこその生存本能が北朝鮮の高麗遠征軍を【敵】と認識し戦いが始まるのです。
日本政府は遠征軍を敵と断定せずに交渉をすることはありませんでした。このコントラストがとても良かったです。
生きるということ、をダイレクトに経験してきた者たちと、サバイバルを巧妙に隠してきた文化社会とのギャップですね。
しかしこの作品の圧倒的な情報量、これにはもう驚きっぱなしです。1つ1つの小道具からエピソード1つに至るまで隙がない。
圧倒的なまでの情報量が作品を支え、ある瞬間には物語をも凌駕する勢い。
北朝鮮の兵士たちをも語り手として登場させるその手腕はやはり膨大な量の情報によって支えられています。
おそらくワタシの中で村上龍最高傑作として、今後も本作を挙げていきたいと思います。
ラストのカタルシスは興奮と感動にため息が出ます。
さて
これを読んでますますワタシは
最近の北朝鮮の暴走っぷりに恐怖を覚えたのでした。
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