『長恨歌』不夜城完結編をシリーズのファンが読む【ネタバレ注意】

長恨歌本/映画/感想

『長恨歌』

大好きな不夜城シリーズ

完結編です。

ワタシが好きな作品に馳星周氏の『不夜城』という作品があります。

ワタシにとってはハードボイルド、ノワール作品の元祖と言えるこの作品。新宿歌舞伎町を舞台に裏社会の住人たちがこれでもかと登場し、どうにもならないトラブルに巻き込まれた劉健一の大立ち回りに興奮したものです。

作者自身が語っていましたが、本来ならシリーズ化する予定なんてなかったのだがあまりの反響に続編の執筆を余儀なくされたようです。その結果生まれた鎮魂歌、そして最終巻・長恨歌。

やはりシリーズ物の宿命として一作目を凌駕することはないものの大好きな作品の完結編に触れないわけにはいかず、レビューしていきます。

過去記事

ノワール小説といえばやはりこれ『不夜城』にしびれる。

ノワール度増量?!『鎮魂歌』不夜城2を読んで【ネタバレ注意】


長恨歌

『長恨歌』不夜城シリーズ完結編を読む《ネタバレ注意》

思わぬ大ヒットに続編製作を余儀なくされる…これはよくある話です。過去にいったいいくつもの名作がシリーズ化され、終わらせるタイミングを逃し、延命させられてしまっている物語たち…そのすべてが中だるみしきってしまっているという現状

果たして眠らない街【不夜城】はその悪しき連鎖を断ち切り、シリーズ化というパッケージを見事に輝かせることができるのか??

ということで読みました不夜城3部作の最終巻。

2作目の『鎮魂歌』ではバイオレンス描写はより過激に、そしてそこに新たな精神的に不安定なキャラクターたちを登場させ、心理描写をていねいに綴ることでなかなかクオリティの高い作品になっていました。

あのならず者たちと中国人闇社会の策士たちとの心理戦はテンポもよくて、続編という呪いのジンクスから解き放たれるべき質を充分に持っていました。

だから個人的にはあれで終わっていてもよかったのではとさえ思っていたのです。

しかし、結局不夜城と言えば最初の『不夜城』であり、今となってはそう珍しくはなくなった生臭いダークヒーローの活躍こそが不夜城の醍醐味なのです。

そう、ダークヒーロー・劉健一です。

前作『鎮魂歌』はクオリティは高いけど所詮劉健一と元恩師・楊偉民の代理戦争だったためいまいち物足りない気持ちをかすかに抱いたものです。

やはり、ワタシはダークヒーローが不夜城を駆け巡る姿を見たいのです。

あらすじ

歌舞伎町の中国黒社会で生きる武基裕。彼は残留孤児二世として中国から日本へやってきた。しかし、その戸籍は中国で改竄された偽物だった。ある日、武の所属する東北人グループのボス韓豪が、日本のやくざ東明会との交渉の席で、バイクで乗りつけた二人組に銃殺された。麻薬取締官の矢島茂雄に脅され、武はクスリの利権が絡むこの事件を調べるはめに陥る。手掛かりを求め、武は情報屋・劉健一のもとへと足を運んだ―。

『長恨歌』の読みどころ、ポイントは?

先に言っておきます。

今作品、期待裏切らない展開にファンは歓喜するはずです。とにかく最終巻はこうでなくちゃ。

これ以外はないってくらいの幕のおろし方に拍手です。

見どころポイントはやはり不夜城シリーズの主人公・劉健一の仕掛けた壮大な罠。

今回の主人公は武。

中国人でありながら国籍上は日本人。この偽りの経歴を守ることだけに人生を捧げてきた男。

日本人と中国人との狭間で苦悩しながらも、その持ち前の機転の良さでうまく立ち回ってきた…はずでした。

日中の歌舞伎町で銃撃事件が起きるまでは。。

ある事件を境にどんどんトラブルの中に沈んでいく…足掻けば足掻くほど深みにはまり、もはや自力では抜け出せない状況にまで陥ってしまう武。

そこへ出会ってしまった故郷の女。

妹同然に過ごしてきたかつての少女は妖艶な夜の女となって目の前に現れたことで、どんどん深みにはまっていく主人公。

そしてついに劉健一に頼ってしまう。。

これが、この物語の最大の不幸とは知らずに…

シリーズ全てを通して読んだ人ならばすぐに気がつくと思うのですが、今作の主人公・武は『不夜城』の主人公劉健一とまったく同じ立ち位置です。

劉健一もまた日本人と台湾人のハーフでどの組織にも属せず生きてきました。

そして愛する女性との出会いでトラブルが二重にも三重にも増えていく展開

策士たちとの攻防

生き残るために足掻く姿

そうです、この物語は原点『不夜城』をそのまま写し、対をなす存在なのです。

『不夜城』を終わらせるにはやはり不夜城が生んだダークヒーロー劉健一しかいません。

そう思うとこの作品、読んでて妙な安定感を感じます。(この手の作品にはあってはならないと思いますが…)

良い意味で言えばファンのため、ファンを意識したのかな?と。

しかし作品だけで見比べてしまうとどうしたって焼き増し感は否めない

かつて絶大な権力と裏のネットワークを構築した楊偉民のポジションにそのまま劉健一が君臨し、かつての劉が楊偉民を殺そうと策を練るまでの流れもきちんと踏んでいます。

結局輪廻というかアリアに始まりアリアに終わる、というゴルドベルグさながらの流れをどう捉えるか?

美しいと思うのか?物足りないと感じるのか?

これはもうファンの心の中にそれぞれ巻き起こる感想でしょうね。

でぃすけのつぶやき

と、ちょっと辛口で締めてみましたが。

ワタシ自身はほんとにこのシリーズ大好きで、結局3部作全て好きだと言うしかありません。

何度も言いましたが、この劉健一というダークヒーローの出現はなかなかワタシにとってインパクトのあるものでした。(映画で金城武が演じたあの印象そのままに)

正義の味方でもなければ自分が生き残るためなら手段を選ばない泥臭さ、ノワール小説ならではの主人公に魅了されたわけです。

このシリーズはちゃんと本棚にしまっておこうと思います。

しかし、毎回毎回思いますが

どうにもならない程に巻き込まれていく男を描かせたら馳星周、って感じですね。

 


不夜城シリーズ 【全3冊 合本版】 『不夜城』『鎮魂歌』『長恨歌』 (角川文庫)


 

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