キャッチーさがもたらした半端感『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
久しぶりの村上春樹ワールド。
今回も深い喪失の旅に出ることになるのでしょうか‥?
久しぶりの村上春樹。
やっぱりじっくり読んでしまう村上春樹。
ワタシは大学に入ってから突如村上春樹作品を熟読するようになりました。
きっかけは今も大好きなねじまき鳥クロニクル。
当時小説というのは「起承転結」が明確であって当然だと思っていたワタシには、まさに文学的啓示のように村上春樹作品は頭上から降り注いだのです。
しかし今までワタシはこのブログで村上春樹作品をいっさい扱ってきませんでした。ワタシに与えた影響力を考えたら充分にエントリーされておかしくない作品たちであったのに。
1つに村上春樹作品はワタシなんかが簡単に感想を述べてしまうと一気に作品の魅力が欠落してしまう恐れが強いからです。
なんと言いますか、非常に繊細な感受性と優れた文章力を持たないまま感想を述べようもんならそれはとても退屈極まりない代物になってしまいます。
それだけ言葉にするのに難しい物語だからこそ、個人の中にだけでひっそりと存在していれば良い。
それがワタシの村上春樹作品に対する姿勢でした。
今回何年ぶりかに読んだ『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んで、そろそろワタシも挑戦してみたくなりました。
この難しい「村上春樹作品」の感想を。
【ネタバレ注意】『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んで。
あらすじ
20歳の多崎つくるは死ぬことだけを考えていた。
それはずっと一緒に過ごしてきた仲間たちから突然拒絶されてしまったから。
あれから大人になり、自分の夢であった駅をつくる仕事に就いて、頭の良い彼女もいるつくるだが、未だ心のどこかで突然拒否されたことがしこりとなって残っていた。
そのことを彼女に指摘され、つくるは過去と向き合う決心をするのだが…
久しぶりの村上春樹ワールド。ブランクを埋めるにはちょうど良い⁉︎
それまでとても仲良くやってきた男女のグループ。みな名前に色がついていて主人公の多崎つくるくんだけ色がつかない。そのことを気にして自分は無個性で、、と嘆くつくるくん。
高校生くらいの年齢ってほんと色々なことで悩み、一喜一憂しますよね。なんだかこの悶々とするつくるくんの姿を見て久しぶりの村上春樹ワールドを体感します。
そして同時にふと違和感を感じます。
村上春樹ワールドにこんな分かりやすい主人公は良いんだっけ⁈
確かに相変わらず比喩表現並べまくって悶々と小難しく考え出すんです。で相変わらず女性にはそこそこもててなんとなく身体を重ねるし、仕事もきっちり丁寧にそこそここなすんです。
でも分かりやすいんです。
かつてワタシを虜にした村上春樹作品の主人公たちはもう少しこう…何考えてるのかわからないというか、つかみどころがなかった印象だったのですが、今作つくるくんは非常にキャッチーなんです。
さらに主人公だけでなく物語の進行も非常に分かりやすいんです。
過去と向き合う。
あの時、何の理由があって仲間たちから突然拒絶されたのかを探すのです。
こんな分かりやすい動機、村上春樹ワールドで良いんだっけ⁈ってなります。
しかもそれまた彼女に言われて昔の仲間たちに理由を聞きに行くという分かりやすさ。
なんだかよくわからないけど深い喪失感を味わされ続けてきたワタシにとって、このキャッチーさには驚きでした。
でもそれがかえって久しぶりの村上春樹ワールドを探求するのに良かったのかもしれません。
最近はやたら暴力残虐イヤミスばかりを読んでいたので、いきなりかつての村上春樹ワールドの文学的喪失感はちょっとギャップが強すぎるかと。。
読みやすさ、分かりやすさ、テンポの良さは村上春樹作品の中では断トツかもしれませんね。
キャッチーさによって喪ったモノ、または獲得し損ねたモノ。
で作品自体の感想はと言えば……
うん、まあ面白いかな?
ってとこでしょうか。
絶賛するほど面白くはないし、興奮もしなかったのですが、先ほども言ったように「読みやすい」のであっという間に読みきってしまいます。
とても静かだけどちょっぴり不思議な世界は健在で、どんどん引き込まれていく自分がいました。
昔から村上春樹作品が好きなワタシにとっては大満足です。
ただここからちょっと辛口気味に紹介をしていくとするならば
村上春樹作品の最初の1冊にはしないほうが良い。。?
これから村上春樹ワールドに旅立とうとする人に、この物語はまだ早いかな?と思います。
とても読みやすいし分かりやすいけど、他のどの作品よりも中途半端。
だから最初にこの作品を読んで
はっきりさせろよ‼︎って思って他の村上春樹作品から距離を置いてしまうのは勿体無いので。
今までの不思議テイストが強いままだったらそんなに中途半端な感じを受けなかったかもしれませんが、今回はとにかくキャッチーゆえに物語に没頭出来やすいんです。
だから余計に答えのないこの放り出された感が強く残ってしまいます。
以下ネタバレ注意です。
分かりやすく提示された問いに対し何1つ明確な答えは用意されませんでした。問いの部分がくっきりとしているだけ余計に歯痒かったですね。
結局夢の中の交わりは?
灰田の行方は?
真犯人は?
沙羅の答えは?
でも思えば人生なんて明確な答えがあることなんて数え切れるくらいだし、その答えだって自分がそう思っているだけに過ぎないんですけどね。
だから物語には結末が欲しいと望むのは身勝手か?
キャッチーな村上春樹ワールド、未読の方は是非。
その繊細で表情豊かな文体は今もなおワタシを刺戟し続けています。
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