これが小説『決壊』の元ネタか?『ザ・ワールド・イズ・マイン』との類似点

本/映画/感想

平野啓一郎氏の『決壊』を読み終え、いまだにその衝撃が身体の中にくすぶっております。

 

そしてこの作品、時間が経つにつれてある作品と似通っているな、と思うようになりました。

その作品があの伝説的漫画『ザ・ワールド・イズ・マイン』(以下TWIM)。

この強烈な作品はひょっとしたら『TWIM』をある程度意識して書かれたのではないか?と

どちらの作品も魂をえぐるような衝撃があるだけに、迂闊に比較することは避けたいと思う一方で、こういう読み方もあるなという一つの考え方としてこの2作品を並べてみること、そして新たな発見を感じより一層楽しめたら?との思いから今日は書いていこうと思います。

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読まずに死ねるか!『ザ・ワールド・イズ・マイン』

小説『決壊の衝撃』

 

『決壊』と『ザ・ワールド・イズ・マイン』との比較、類似性

最近読み終えたこの小説『決壊』はまさに魂を揺さぶられる程の衝撃を与えてくれました。100点満点ではないにしろ、問題提起としては充分すぎるほどのインパクトがありました。

そして同じ様に漫画『TWIM』も凄まじい衝撃を今もワタシの中で放ち続けています。

どちらも深く受け止めたからこそ、この2作品に共通する点、似通っている点をつい意識してしまうのです。

そしてこの共通点を敢えて意識することで、より両者が抱えるテーマを補完し合えるのではないか?と勝手に思っているのです。(決してあら探しではありません)

では早速この2つの作品の共通する点を浮かび上がらせてみようと思います。

1インターネット/マスコミの無責任な煽動

『TWIM』では指名手配されたトシモンがネットにて【殺人代行】という過激なメッセージを配信。聴衆はネットを通じて彼らのメッセージを無意識に拡散し、やがて人々は観客からいつしか殺人を実行する参加者へと煽動されてしまいます。

また同時にテレビでも盛んに報道され、殺意がどんどん連鎖していってしまいます。

『決壊』でもその図式はそのまま使われており、悪魔の思惑通り無意識に拡散されていく殺意が伝播し、離脱者として無差別的に殺人が広がってしまいます。

『TWIM』のトシはモンと出会って殺人者になる前はネットオタクで掲示板に日々の鬱憤を書き連ねているどこにでもいる青年でした。ネット上では饒舌で、そこで知り合ったハンドルネームだけの付き合いに本音を吐露するシーンなどは沢村良介の【すうのつぶやき】にも似た構図です。(詳しくは次項に。)

どちらの作品も誰もがスマホを持ち、いつでもネットに接続できる今よりもちょっと前、好きな人、詳しい人だけが集まるネットと一般大衆の情報源であるテレビとが混在した時代設定というのも、この仕掛けをうまく作用させるために必然だったのかな?と勘ぐってしまいます。

2 匿名だからこそ本音が集まる闇の世界

沢村良介はどこにでもいる平凡なサラリーマンで、誰もが抱えているような普通の心の悩みを持っていました。ただ、その悩みや不安を妻ではなく匿名のその他大勢に向って発信していました。

一方でトシもまた平凡ながらも真面目に働く青年でした。ただ隠れて手製の爆弾を作るという趣味を除いて。

この隠れた趣味を掲示板にて語りだすトシ。これもまた良介と同じく匿名性によるもので、心情を吐露し本音を発する場としてネットの世界が利用されるのです。

この2人はやがてこの本心を曝け出すことで良介は悪魔に目をつけられることになり、トシは自分の中の力に対する欲望を抑えきれなくなり自らが悪魔となっていくのです。

またこのネットのやりとりにおいて良介と掲示板で語り合った相手が実は奥さんという知り合いだったことも、トシのチャットルームでの相手がかつての同僚で(まったくの他人ではなかった)というちょっと物哀しいエピソードも酷似しています。

3 加害者の家族

ワタシが『決壊』を読んでいてとても辛かったのが遺族、そして加害者の家族がかなりしっかりと描かれていているとこなんです。一番辛いのは被害者の家族か?加害者の家族か?って問いかけが作中ありますが、TWIMでもあるんです。

トシの母親が任意で事情を聞かれそのまま心を病んで倒れてしまいます。

結局最愛の息子が殺人鬼だったというショックとその事実を受け止めきれず、最後は病院で飛び降り自殺をしてしまいます。

この加害者のおかんという話は今読んでも泣けてきます。

カラオケ教室がささやかな楽しみの平凡な主婦が見事にぶっ壊れる様を切なくなるほど描ききります。

こうした描写もまた『決壊』と似ていますね。(ちなみに『決壊』では主人公・崇の父が自殺します)

4 同時多発テロ、殺意の連鎖

そして極めつけは爆弾テロ。

両作品とも同時多発的に各地で無差別テロが起こり、そしてメディアや情報に煽られて簡単に殺人に手を出してしまう人々の姿が描かれています。

『TWIM』ではトシとモンが日本各地を移動しながら爆弾を仕掛けて、『決壊』では悪魔がお台場で自爆テロ、さらに同時に仕掛けていた爆弾が作動します。

 

まとめ。

似てるから何か問題があるのか?という問いよりも、ワタシはこの2つの作品があまりに共通する部分を持っていたことに驚きました。

先に世に出ていたのは『ワールドイズマイン』でして、こちらが1997年からヤングサンデーで連載がスタートしています。一方『決壊』は2006年に新潮にて連載が開始されているので、執筆時に『TWIM』を意識した可能性は高いかもしれません。

しかしだからどうしたということではなくて、どちらの作品も読む者に衝撃を与えてくれるすごいドラマを持っています。

どちらも好きな作品なだけに、共通する部分を見つけて一人喜んでいるにすぎないわけですが、もし両作品に興味がある方は一度どっちも読んでみて欲しいです。

この共通部分は偶然か?それとも・・・

 

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