辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』を読んで感じた女性同士の絆の強さ。

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女同士の絆ってこんなにも深く、固い。

久しぶりの辻村作品。

名作『ツナグ』は映画化までされ、今やかなりメジャーな作家さんですね。ワタシも過去にハマって続けて何作も読んだ思い出があります。

女性の仲間意識というか、こういうコミュニティを描かせたらやはりイヤミスの女王【真梨幸子】作品が即座に思い浮かぶあたり、ワタシも本作をだいぶ色眼鏡で眺めていたのかもしれません。

これは女性同士のドロドロ愛憎渦巻く狂気の世界ではありませんでした。

では早速『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』のレビューをしていきます。

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辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』を読んで感じた女同士の深い絆。《ネタバレ注意》

この作品は著者の故郷である山梨を舞台にアラサー女子たちのリアルな閉塞感が描かれています。

今でこそ女性の社会進出が当たり前になりましたが、それも東京から離れた山梨ではそこまで浸透しておらず、まだまだ結婚とか出産とかがもっとも重要な意味を持っています。

要するに「結婚によって生まれる格差」がその後の人生を大きく左右するということです。

そんな閉塞的なコミュニティの中で、一人失敗してしまったチエミ。母親を刺し殺し、失踪。

幼馴染のみずほは忘れていた記憶と共に失踪した友人を探すことに。

次第に解かれていく記憶の塊。

幼い頃に交わした約束。

母親想いのチエミが一体何故事件を起こしたのか?

あらすじ/作者情報

地元を飛び出した娘と、残った娘。幼馴染みの二人の人生はもう交わることなどないと思っていた。あの事件が起こるまでは。チエミが母親を殺し、失踪してから半年。みずほの脳裏に浮かんだのはチエミと交わした幼い約束。彼女が逃げ続ける理由が明らかになるとき、全ての娘は救われる。著者の新たな代表作。

辻村深月 

1980年2月29日生まれ。千葉大学教育学部卒。『冷たい校舎の時は止まる』(講談社文庫)で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。『ツナグ』(新潮社)で第32回吉川英治文学新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

まったく余談ですが、この作品はNHKでのテレビドラマ化の計画があり、キャスティングまで済んでいたのに作者がその脚本に納得できず直前でポシャったというエピソードがあります。

女同士のコミュニティ、その恐ろしさと閉塞感。

またまた油断してた、、

そう、辻村深月作品は人を惹きつける上手なストーリー展開と生々しくならない程度に緻密な人間関係を読みやすく綴るから読み終わったときにいつも軽い衝撃を受けます。

今回も然り。

なんか、普通に35歳のおじさんだけどラストで涙が出そうになってしまいました。。

これ、女性同士の話なんです。

あの特有の[綺麗な悪意]みたいなものが充満するコミュニティを描いてるんです。

特に主人公みずほはかつての親友の事件後、共通の友人たちを訪ね歩くんですが、そこでは若い頃の合コンざんまいの日々が赤裸々に語られ、当時渦巻いていた悪意もまた暴かれていきます。

友達の友達

合コン相手

無意識のうちにクラス分けし、使い分ける関係

キーマンであるチエミを様々な友人、知人が語っていく中で罪悪感を携える主人公みずほは次第にこの罪悪感の正体に気づいていく。

途中で赤ちゃんポストの話が登場するんですが、これがまさかそんな機能をするとは、、って感じです。

女性にとって閉じた社会、閉ざされた世界《ネタバレあり》

女性にとって、特に専業主婦にとって家庭もまた一つの社会です。専業主婦でなくとも自営業ならば余計に家庭も社会となります。

チエミの家庭は農家で、家族間の仲は周囲からは「異常」と言われるほど親密なものでした。

家庭内での同性

同じ女性としての指標を母親の姿を軸にして成長しなければならない「娘」たち。

みずほは虐待に近い扱いを母親から受けて完全に心を閉ざしてしまっている一方で、チエミは逆に濃すぎる愛情がその距離感を曖昧にしてしまっていました。

先程の合コン仲間たちが無意識の悪意によって縛りあっていたとするならば、この親密過ぎる母娘は意識的な愛情(度を越したものであったが)によって互いを結びつけたか…

そしてそれが刺殺事件へと繋がっていきます。

結局チエミは母親を刺し殺してもその絆は断ち切れなかったわけですが…

やりたいこともなければなりたい自分も見つからない。結婚さえすれば、出産さえすれば、この閉じた世界から脱出できるのではないかと思っていたチエミ。

これきっと山梨に限った話をじゃないですよね。

今たくさんいると思います。

出会いがないと、一人のほうが楽だとか色々な理由があるにしろ未婚率はどんどん増えていますしね。経済的な面での先行き不安も大きいと思います。

何気なくこの作品でも登場人物たちの経済的な格差が随所随所に出てきます。

結婚も出産もできなかったチエミは終盤

「私には何もない」と語るシーンがあります。

女性にとって夢や目標を持って生きることはとても難しく、アイデンティティを確立することさえ難しいのだということを物語っています。

みずほとチエミが再会するラストシーン

そんな辛い時代に母親との距離感をうまく掴めなかった二人は誰よりも「母親」になることに憧れながらもがく「娘」たちの姿でした。

でぃすけのつぶやき

前回青山七恵の作品を読んで

「うちの娘」のことをすごく考えましたが、、まさか続けて娘のことを想う作品と出会うとは…

身体が疲れてることもあってかすんなり心に響きまさかラストでは泣いてしまうという我ながら不気味な体験をさせられました。

うちの娘も母親とべったり仲良くて、それでいて大げんかもするし、、なんか激しい感情でぶつかり合ってるなーと日々思ってました。

よく考えれば妻さんも母である前に「娘」であったわけで、みんなだれかの娘や息子なんですよね。

関係性が本人の意思とは否応なしにその人に親という役割を与えてしまうから。

逆に関係性をうまく享受し合えずに狭い世界で生きていくことになったときに生じるアイデンティティの喪失。これは怖いなと思いました。

単純に田舎だから、とかで済む話じゃありません。

これだけ情報過多な時代、かえって自分が意識してないと自分が好きな情報しか入ってきません。そうやって勝手に孤立していき、自立のチャンスを逃してしまう……

多分、単に「女性同士の絆」がテーマではあるんだろうけど、そこに女性のアイデンティティを確立する物語を見出してしまうのは考えすぎかな?

 

 

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