トラウマ注意の映画『アポカリプト』の感想【ネタバレ注意】
メル・ギブソンという俳優がいる。
『マッドマックス』で鮮烈なデビューを飾ってからというもの、マックスさながらのバイオレンス物からどこか愛嬌のある瞳を遺憾なく発揮するラブコメまで幅広い作品で活躍する名優です。
そんなメルが俳優という枠に収まらないほどの才能の持ち主だと判明した名作『ブレイブハート』の監督デビューが1995年。この作品で監督賞や作品賞を含むアカデミー賞を5部門で獲得し驚愕のデビューとなりましたが、その勢いは止まらず、続く『パッション』ではキリスト最後の12時間を徹底したリアリズムで描き世界中のキリスト教徒を震え上がらせました。
※カンザス州の劇場で観賞していた50歳代の女性観客が、心臓まひを起こし死亡したというほどの衝撃的作品で、ユダヤ系団体からのものすごいバッシングを受けながらもメル・ギブソンが私財を投げ打って制作した本作は世界的に750億円にも上る大ヒットしました。
ワタシは「残酷な」描写には慣れているものの「痛い」映像は得意ではないのでこの『パッション』以降、心の中で「メル・ギブソン警戒線」なるものが張られることになりました。
しかし先日Amazonプライムビデオにて配信されていた作品をうっかり観てしまったんです。
あれだけ注意してたメル警報が鳴る間もなく、ワタシはその世界にどっぷりと入り込んでしまい見終わった後にはメル・ギブソン警戒レベルは最大まで引き上げることになりました。
その作品の名は
『アポカリプト』
早速トラウマ注意のレビュー開始です。
命がけの追いかけっこ。『アポカリプト』はトラウマ注意の壮絶な映像体験でした。【ネタバレ注意】
まず先に言っておくと本当に衝撃的なシーンがこれでもかと来るので耐性無い人は観ないほうが良いと思います。血を見るのが嫌いって人は特に要注意です。
前半の牧歌的なシーンから一転、かなりショッキングな描写を挟んで後半怒涛のアクションチェイスに、2時間ちょいという長尺サイズを一切感じさせない作品となっています。
特に「観る」というより「感じる」カメラアングルに雄大な自然の景色、マヤ文明を(多分)うまく再現したであろうディテールはこの作品の完成度をぐっと高めています。
では、早速本作の感想を書いていきますよ。
まだ観ていない人はネタバレもあるので要注意です。
心拍数上がりっぱなし!『アポカリプト』の取り扱い方法
恐怖心が心拍数を上げることを知った映像体験。
この作品、映像体験としての衝撃度に比べてストーリーはそこまで作り込まれてはいません。
連れ去られ、色々あり、戻る。
背景としてマヤ文明衰退の要因が下敷きとなっているので、やりようによってはもう少し「宗教」めいた「人類の進化の歴史」的な展開も絡めたかもしれないと思ってしまいますが、それは観客の勝手な希望ですかね。。
メル監督、そこんとこは多分敢えて掘り下げることなく、恐怖を描いていきます。
実際彼はインタビューで
「人間が恐怖心をもっていなかったら残忍さも少なくなっただろうというのがオレの意見だ。人間には計り知れない恐怖がある。恐怖心、それがすべてなんだよ(中略)
オレが目指したのは贅肉のない映画。その“痛さ”というのはオレたち人間がもっている恐怖心の表現のひとつなんだ。恐怖心は人間の行動のオリジン。オレは、その恐怖心を原始的なランニングを使って描きたかった。(中略)
確かに恐怖の表現のひとつだよ。オレは常々、生きるということ自体、さまざまな“責め”を通過することだと考えている。人間は困難や試練に直面したとき、苦悩し耐える。そして、そんな極端な状態を耐え忍んだあとは、より良いものがやってくると思っているんだ。言葉ではいい表せないようなハードなことを通過し、それでも人間らしくいられるのは簡単なことじゃない。だからオレはそれが出来る人たちを尊敬しているんだ」
襲撃され、連れ去られてから主人公ジャガー・パウの恐怖が観ているこっちにまで伝わってくるんです。
どうなるんだろう?
何をされるんだろう?
って。
この緊張感があの生贄シーンで最高潮に達し心拍数もまた最大に…
あらすじ
誇り高き狩猟民族の血を受け継ぐジャガー・パウ(ルディ・ヤングブラッド)は、妻や仲間とともに平和な暮らしを送っていた。ところが、ある日、マヤ帝国の傭兵による襲撃を受け、仲間とともに都会に連れ去られてしまう。そこで彼らを待ち受けていたのは、干ばつを鎮めるためにいけにえを捧げる儀式だった。
緊張感と恐怖心、この2つが最大の魅力となる
何もわからないまま連れ去られるっていう第一部。平和な暮らしをちゃんと描いているし、妊娠中の妻と子供の存在が前半パートの緊張感を高めています。
そして人体解体、、というか生贄シーン。
これもまた田舎から都会に連れてこられた主人公たちが、実際に生贄としてピラミッドの頂上で生きたまま心臓を取り出され、最後は首を切られて落とされるところを見せられ観ているこっちまで緊張感と恐怖心が最高潮に…
この部分が第二部ですね。
なんとか命からがら逃げ出したジャガー・パウとそれを追う戦士たちとの壮絶な追跡アクションパートが第三部となり、ここから恐怖心と緊張感はずっと高いままラストまで突き進むことになります。
なんか古くさい表現ですが、「手に汗握る」っていうのが一番しっくりくるかも。
メル・ギブソンの映画人としてのセンスが光る
後半のアクションの連続はまさに映画的な面白さが詰まっています。
森という視界の悪さや立体感を人間の肉体が切り開いていくっていうこのスピード感。
マッドマックスでは車やバイクによるスピード感を広大な大地で表現していましたが、森という狭い空間だからこそ、余計に速く感じるこの体感は見事。
またハリウッド的と言われればそれまでなのですが、マヤ族の悪役と主人公たちとをはっきりわかりやすく描かれています。
これが単純な追いかけっこをさらにわかりやすくしています。
生贄シーンであそこまで描写する必要があったのか?ここは意見が分かれるところですが、ワタシはあのショッキングさがあってこそ後半の追いかけっこまでずっと緊張感が維持できたんだと思います。
あとは定期的に映し出される妊娠中の妻と子どものシーン
これもまたハリウッド的ですがよくできてますね、まんまとワタシはずっとドキドキしたまま最後まで見ちゃいました。
でぃすけのつぶやき ネタバレ注意のまとめ
トラウマレベルで気をつけたい衝撃的な場面がありますが、全体的にはとてもよく出来たアクション映画だと思います。
難しい展開もなければ複雑な人物設定もない
家族のためにひたすら走り続ける主人公はある意味では模範的だし、悪役として適度なキャラクター設定もされています。
マヤ文明という特殊な世界観は忠実かどうかは別としてとてもよく再現できてますし、大自然を活かした素晴らしい「絵」は作品の完成度をより壮大に仕上げています。
そう、これはとても面白いアクション映画なんです。
あのラストシーンはすごい意味深で、単純なハッピーエンドでないとこもワタシ的には拍手でした。
疲労し、傷だらけのジャガー・パウが逃げ込んだ先に広がる海
そこには巨大な船団がすぐそこまで来ていました。
追っ手の2人の戦士たちは戦意を喪失
救世主のような位置づけにも見えるこの船団ですが、良く見ると宣教師と混じって武装した兵士も同乗しているし、背景の海は暗いし…
残忍、残酷の極みと思われたマヤ族の儀式なんかこれから起こる侵略の歴史に比べたら全然大したことなかったんだという示唆
キリスト教が乗り込んでくることで、その後マヤ文明が謎の消滅を遂げたことに繋がるであろうこの描写
海岸で途方に暮れながらもふらふらと近づいてしまう戦士たちと比べて、森の奥で暮らしていた主人公はきっと生き物としての直感が強いんでしょうか、その場をさっさと去り無事に家族と合流します。
いやーほんとやっとホッと出来た瞬間でしたが、その直後にやってくるこのモヤモヤ感
やっぱりメル・ギブソン作品は取扱い注意ですね。
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